宗教のときめき

14ラブジャンクス
やすい ゆたか
 これできぬあれもできぬとダウン症ラブジャンクスで逆立ちダンス

 3月21日は「世界ダウン症の日」この日に大阪万博公園お祭り広場で「ONE+LOVE WORLD Diary」が開催され、「ラブジャンクス」というダンススクールのパフォーマンスが展開され ました。関西テレビでも「スーパーニュースアンカー」で紹介されました。

 ダウン症というのは21番染色体が生まれつき一本多いことから起こる障害を総称したものです。心房中膈欠損症などの心疾患を持っている場合が多く。知的障害や運動障害を伴うことが多い のです。ですからあまり激しい運動は負担になりすぎるということで、運動会でも走ってはだめだと制限されたりしていました。

 それがブレイクダンスという激しく腰を振ったり、手をついて回転したり、逆立ちして踊ったりもあり、健常者でもなかなかできないような激しい運動をノリノリの表情でやっています。できるんだということですね。この子たちは障害を抱えているから、あれもできないこれもできないということで、自己表現の欲求が抑圧され続けてきたわけです。

 

 

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 ダウン症協会からダンスの指導を任されたのが牧野アンナさんです。お父さんが校長の沖縄アクターズスクールでインストラクターをしていたのです。 彼女は元タレント歌手で、ドラクエファンならご存知でしょう。話しかけたら、『ラブソングを探して』を歌ってくれる歌姫アンナです。SPEEDなどを育てた人です。彼女はダウン症の人にどうして教えていいかとか、前例も理論も何もない状態ですから、とりあえず「真似して踊ってください」というしかなかったそうです。そうしたら彼らは興奮してきて体が動き出したのです。

 抑圧されていた自己表現欲求が溢れ出すわけですね。人間は元々、音に反応して自分で体が動き出すようにできているのです。筋肉が弱いので無理に激しく動か したら怪我をさせてしまいます。だけど自然に音に合わせて体を動かせばいいのがブレイクダンスですから、ダウン症の子供も入っていきやすい ようです。

          

 もちろん激しく動いたりしたくなりますから、筋力をつけるために腹筋運動を指導します。すると一日180回もできる子もいるのです。ですからダウン症だから走れない、踊れないとか決め付けて能力を伸ばそうとしないのがいけないのです。その子に合ったやり方を自分で見つけられるように指導すれば、筋力もついてくるし、逆立ちダンスまでできるようになるわけです。

 牧野アンナさんのお話では、それまで はカリスマ的な「牧野アンナ」像をつくりあげて、その権威で生徒たちを引っ張っていってたけれど、ダウン症の子供たちの前では、そういう権威や理屈は通じません。「自分が汗をかいて動いて、この人に教わりたいと認めてもらわなければならない」ので、当たり前のように自分の虚像を壊せたのが衝撃的だった そうです。(サイトgo to new direction参照)http://www.gotonewdirect.com/ja/archives/2005/12/gotos_q_015.html

   アクターズスクールでのタレント養成の場合は、ハイグレードなテクニックをこなせるように教え込むわけですね。厳しく訓練しなくてはならないわけです。家でも練習しなさいよなんて言わないといけない。ところがダウン症の子供たちはそうじゃない。あまりやりすぎると大丈夫かなと心配になっちゃうわけですが、家で練習しなさいと言われなくても、家でもずっと踊り続けたりしているのです。レッスンの帰り道でも踊りがやめられないということです。

 自己表現するこれが人間の本質なんですね。そのような体にできているわけです。ところがダウン症の子供たちは、それを抑圧されてきた。それがブレイクダンスで解放されたのです。だからもう止まらない。自己表現できる喜びにわくわくしているのです。よく考えますとダンスというのは何も高度なテクにクックを決めて観客を唸らせるためにするものではありません。生命の鼓動を体で表現し、生きている喜びを全身で実感するためにするものなのです。その気持ちを一緒に踊って分かち合うためにするのですね。

 別に歌や踊りに限りません。知識を得たり、物を作ったり、様々なサービスやもてなしをしたり、人間は自己の能力を表現し、自己実現するのが本性です。それができるのがうれしいはずです。勉強や運動や仕事がしたくてうずうずしているはずなのです。

 ところがそれらが上から押し付けられたり、型にはまった形でしかできなかったり、それ自体が目的でなく、何かの手段のために無理やりやらされたりするので、ストレスになり、本来自己実現のはずが自己喪失に感じるようになってしまっているわけですね。本当に自分の欲求として感じられないのです。 つまり自己疎外です。

 ダウン症の子供たちのダンスパフォーマンスは、我々に歌ったり、踊ったり、食べたり、考えたり、作ったり、サービスしたりすることの本来の姿を見せてくれています。ですから見ているだけでうれしくなって、こちらの体まで動き出すような気がします。人間の原点に引き戻らされるような感情が湧き起こります。この感情こそ宗教的なものではないでしょうか。