第一章 第14節         付録 グローバル・デモクラシー宣言(やすいゆたかの「グローバル憲法草案」より引用)


                 グローバル・デモクラシー宣言

 
全地球の全ての人々が主権者として主体的に参与するグローバル政府の政治体制は、グローバル・デモクラシーの理念に基づいたものでなければならない。グローバル・デモクラシーとは何か。それは恒久平和や地球環境危機への対応、基本的人権の擁護など、全人類の存亡に関わる全人類的課題を優先して、そのために全人類が協同する運動である。

 グローバル市民は、そのために自分たちは何をしているか、また自分たちには何ができるか、常に問いかけ、話し合い、創意工夫をこらして協力しあっているクリエイティブな主体であることを要請されている。そしてグローバル市民たちは地域コミュニティでの共同を大切にしながら、同時に直接全世界の人々との協同に参画しようとする。それにはグローバル市民の基本的人権として「全世界に情報を発信し、全世界から情報を受け取る権利」が認められなければならない。グローバル・デモクラシーは全人類の協同を実現するために必要な全情報が全人類に開示されて、はじめて有効に機能しうるのである。

 グローバル・デモクラシーは、グローバル市民の総意を民主的手続きによって形成するグローバルな政治システムを要請する。それは国民国家の連合としての国際連合の限界を克服するものでなければならない。しかし国民国家も地域国家としてグローバル政府に参加する以上、国民国家の代表の集まりとしての上院と、地球を百余りの選挙区に分けた代議員から選出された全人類を代表する議員による下院から構成されたグローバル議会が設置される。グローバル・デモクラシーも近代代議政治の伝統を継承しなければ、とても正統な政府として認知されないからである。

 しかしグローバル・デモクラシーの運動の主体的な担い手は自覚的なグローバル市民である。そのクリエイテヴな活動に支えられてはじめて、集団安全保障や地球環境保護、人権擁護の機能をグローバル政府も果たすことができるのである。したがってグローバル市民が個人としてまたはNGOを通して発信するグローバル世論やその運動を尊重する直接民主主義的体制も整えなければならない。

 グローバル・デモクラシーをデモクラシーのグローバル化と捉え、非民主主義的国家を政治的軍事的経済的外圧によって民主化することと誤解してはならない。デモクラシーを外圧によって、無理に注入しようとするのは民主的ではない。他国の民主化に貢献するのは、民主的国家が魅力ある国づくりの模範となることによってである。

 グローバル・デモクラシーは、生命の循環と共生の原理にもとづく健全なる地球環境の下で、全人類的福祉を優先し、全人類の福祉に叶うように行動することである。それはグローバル政府の原理であると共に、国民国家や全ての自治体、企業、非政府組織、団体、個人の行動原理でもある。各組織や諸個人はそれぞれ自己の福利のために行動する権利を有するが、それが同時に、地域社会や国民国家やグローバル社会において、全人類的な福祉に叶い、地球環境にとってもプラスに作用することを求められているのである。

(グローバル政府が立ち上げられていない段階においても、すべての政府・自治体・企業・団体・個人は、グローバル政府が存在して、それがグローバル・デモクラシーに基づいて全人類的福祉のために行うであろうと考えられる調整に叶う行動を選択する倫理的義務を負っているのである。)

 グローバル・デモクラシーは、豊かな国家がより豊かになり、巨大企業がより巨大化することを一方的に批難するわけではない。そのことが地球環境や全人類的な福祉にとって、マイナスに作用する限り、厳しく規制するのである。貧しい国や地域への援助や開発は、それが地球環境の破壊に歯止めをかけ、市場を発展させて、全人類の福祉に叶う限りで奨励するのである。決してそれが急速な工業化によって、地球環境破壊や経済秩序の混乱を招き、全人類の福祉にとってマイナスになってもよいというのではない。

 とはいえ政治・経済・交通・通信のグローバル化は、資本と人と物資と情報の自由な交流を促進させずにはおかない。また教育水準の世界的平準化をもたらさずにはおかない。そしてそのことが大局的には全人類的福祉の向上につながるのである。そのことを了解した上で、各国民国家や企業や団体や諸個人が、全人類的福祉に叶う限りで、大いにグローバルな競争を展開すべきである。その中でこそ自己の幸福を追求し、能力や個性を伸長させ、自己実現を行うことができるのである。


               グローバル市民の権利・義務宣言

 
グローバルな統合の時代おいては、全人類はグローバル社会の市民としての自覚を求められている。そしてグローバル社会をおいては、個人の尊厳が認められ、人格として尊重される。だれもが大いなる生命を宿し、かけがえのない人生を生きている。いかなる個人や権力といえども、自己および他者の人格的尊厳を蔑ろにすることは許されない。
  
 そしてだれもが人種、膚の色、性別、門地、宗教、信条、思想によって不当に差別されずに、自己を実現し、幸福を追求する権利を保障されるべきである。そのためにグローバル市民は、コミュニティ、自治体、企業、団体、国民国家、グローバル社会において、言論、表現、情報蒐集および開示、集会および結社の自由が保障され、マスメディア及びニューメディアへのアクセス権を保障される。そして自治体・国民国家・グローバル政府に対して主権者として平等な選挙権・被選挙権を含む参政権が保障される。

 グローバルな統合の時代においては、グローバル市民の生活はグローバルな競争にさらされるので、雇用不安や生活不安に陥る可能性が大きい。グローバル社会はグローバルな規模での雇用調整や居住調整をおこなうシステムを整え、グローバル市民の生存権、勤労権を保障するように勤めなければならない。また国民国家は生活困窮者に文化的な最低限の生活を保障し、失業者の再雇用のためのシステムを整え、国内労働力の質的向上をために教育水準の向上に努めなければならない。


 
グローバル社会においては、基本的人権が地球上のすべての地域において保障されることが求められる。(グローバル政府の立ち上げの時点で、基本的人権を保障できていない国民国家とその国民は、グローバル政府に参加する権利を制限されざるをえない。)

 グローバル市民は、基本的人権を与えられたものとして、ただ享受しているだけでいてはならない。この権利を最大限に活用して、大いに自己の可能性を追求し、自己実現を図らなければならない。そして自己の帰属するコミュニティや自治体、国民国家、グローバル社会での責任を分担し、主権者としての義務を履行しなければならない。そして恒久平和や地球環境保全などの全人類的課題を優先し、自己の職場や生活の場でその解決に努力すると共に、グローバルな協同に参加すべきである。

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