やすいゆたか短歌集 四〇一〜五〇五
 

四〇一 獅子に牙鳥に翼を与えしが人に与える前に品切れ
四〇二 生き残る力を持たず投げ出され、智恵と火ともて危機を乗り切る 

四〇三 謹みと戒めのない人間を生かしておけば国は滅ぶや
四〇四
先を読む眼力だけで論じらめ人を刑するポリス加えよ

四〇五 順逆の道を歩みて迫りたるその闇こそは神も侵せじ
 

諸子百家続き
四〇六 助ければいくらくれると母親に掛け合う暇に子は溺れ死ぬ
四〇七 万引きの功を誇りて見せ合いし、子らにはありや羞悪の心

四〇八 欲望で動くが人の性ならば、礼を定めて矯むにしかずや
四〇九 兼愛も別愛もなし無為の道、自然のままに生きるにしかず

四一〇 大本の自然の道が失われ賢しらの道かまびすしいや

四一一 欲ぼけは上っ面しか見えぬもの欲を離れて妙を知るなり

四一二 言の葉で言い表せば嘘になる一つになりて体で知れるや

四一三 生忘れ身の束縛を捨て去りて無心になりて道に遊べや

四一四 わが夢で胡蝶になりて楽しめり人の身なるは胡蝶の夢かは

四一五 節くれた樗伐られず大木に木陰に憩ふ無可有の郷

四一六 仁義すら礼すら忘れ顔回は肢体やぶりて吾を忘れり

四一七 空見れば吾は空なり、海見れば吾は海なり海鳥の鳴く

本居宣長論
四一八 家庭では虫も殺せぬ良きパパが、修羅場に立てば百人殺すや

四一九 ますらをのきつとしたるはつくりもの、女々しく未練真情ならずや

四二〇 世を憂う心なくては何事も胸に響かじ学なり難し

四二一 学成りて憂いの思い溢れても躬は治者ならでなすすべもなし

四二二 好きだから信じて楽し何事もわが賞楽の道具なりけり

四二三 猪を無粋の極みといふなかれ臥す猪の床と言へばなつかし

四二四 無常こそもののあはれの元ならむ名残の桜ひとしお目に沁む


ルネサンスの思想
四二五 限りある命の壁を突き破りモナリザとなり永久に微笑む

四二六 自らの自由な意志と判断で人は成れるや天使にさえも

四二七 キリストがクロスにつきて贖いし罪の重荷を今も背負うや

四二八 国民の利益を守る為なれば、神の教えも捉われまじきや

四二九 自らの痴愚に気づかぬ阿呆ども独善かざして狂乱極める

四三〇 大工の子クロスにつきて人類の罪贖うは痴愚の見本か

四三一 痴愚なるが生まれつきたる性ならば痴愚を楽しみ生きるにしかずや

四三二 法王が鎧兜に身を包み左の頬を差し出しに行く?


モラリスト

四三三 何を知り何を根拠にいがみ合う、確かなる事何をか知らんや

四三四 人ゆえに無限を知りぬパスカルは、葦のごとくに悲惨ならずや

四三五 考えることでコスモス包みたり、その偉大さを神忘るまじ


宗教改革
四三六 鍋の底チャリンと鳴れば煉獄の父ちゃん飛び出しパラダイス行き

四三七 トーラーを叶えることの難ければ罪贖えるイエス崇めよ

四三八 定めゆえ人を愛するにはあらじ、充たされし愛自由にあふる

四三九 富築き天賦の仕事と証たるその営みが近代生みしか

本居宣長論
四四〇
哀れなる物を哀れと思い知るその心こそ物の哀れか
四四一 山なれど山の愁いのありたれば啼き行く鳥も哀しかりけり
四四二 うつくしきソウル宿れるヴァイアリンの奏でる音こそうつきしきかな
四四三
竹切りてその切口を睨みつけ七日たてども理はみえざるや
四四四 吾が心、はてなき宇宙と一つなり、陽明・宣長同じ心や
四四五 吾が思い届かぬものか木片に命の響き聴かましものを
四四六 草や木の枯れ折れる音を聴きてさえ、もののあはれは胸を刺せるや

ルネサンス科学
四四七天と地を入れ替えてみて悟りしか宇宙の無限人のはかなさ
四四八 開けてみて五臓六腑は変らぬを如何に築きし文明の世


ノヴム・オルガヌム
四四九
何事も割り切りてぞ捉えたる人にありがち種族のイドラ
四五〇  井の中に篭りて世間狭くする己の洞窟抜け出し海へ
四五一  運命といふ言の葉に惑わされ運命信じて未来なくさじ
四五二  権威ある学説なれど己が眼で確かめるまで信じまじきを


哲学入門
四五三  ほろ苦き青春の涙なめしより問ひ初めしかは生きるということ
四五四  果てしなき懐疑の末にたどり着く「懐疑する我」確かなりしか


近代的自我と身体的個人
四五五  禁断の木の実を食べしその日より、自我の自覚は生まれたりしか
四五六  考える我この身にありて愁い哀しみこの胸を打つ
四五七  窓もなき自己にひたすら閉じこもるモナド市民か我も同じき
四五八  悲惨なり偉大でもありその間もがきて生きる人間なりけり

四五九  自らの感覚により構成すコスモスもまた己の姿か


年末・年始雑感
四六〇 
酉年も鶏飛ばぬか曙に向けて飛ばしぬいらだちの声
四六一 
梅原の哀しみ求め年は経ぬ吾が哀しみも極まれるかな
四六二  病院の診察室の前で待つ裁きを迎える犯人のごと
四六三  黄色なる検査しめがけ尿飛ばす刹那に浮かぶ濃き緑かな

四六四  めでたさはとし経るごとに新たなり屠蘇は控えて夢を忘れめ
四六五  時廻り生まれし干支に戻りたり熱き想いの未だあせぬど

四六七  年明けて未だ白紙の年賀状賀の言の葉を探しあぐねて


4生得観念としての神

四六八  完全な神という名の観念を不完全なる我、つくり得ざらむや


5主観・客観認識図式

四六九  客観の事物に己の情念を置き入れまじき理を知りたくば


6物心二元論

四七〇  魂は頭のてっぺん主座にして巡れる情報巧みに読み解く


1スピノザの汎神論

四七一  永遠の相の下にて眺むれば塵芥すら神の現れ


2ライプニッツのモナド論

四七二  窓なくて自己関心に閉じこもる、コスモス映じて調和に生きるや

3ロック・バークリー・ヒューム

四七三  観念が生まれし元は経験や事物は畢竟感覚の束


社会契約とは何か

四七四  個人あり生き残るためあいともに契約むすび社会つくりし


自然状態ははじめから戦争状態か?

ホッブズ

四七五  人が皆野獣のごとく牙むかばリヴァイアサンをつくりて守らん

ロック

四七六  お互いに富と人格認め合い仲良く生きるが自然状態

四七七  貧富の差生まれて互いに侵し合う修羅の世とぞなりぬるかな

ルソー

四七八  土地区切り、剣を持ちて争える、農耕・冶金が不幸の元かは


リヴァイアサンの絵

四七九  巨大なるジャイアントなり村守る、瞳凝らさば無数の人あり

四八〇  各々が欲望機械の人なれば、集まりつくれる国家も機械か


ロックの道具としての国家

四八一  主権者に信じて託せり統治権、耐え難ければ革命に起つ


ルソーの『社会契約論』

四八二  諸人よ私的利害はさておきて、皆の幸こそ共に語らむ

四八三  激論を交わして決めし一般意志(のり)ならば、守り抜くこそ真の自由か


フランス啓蒙思想

四八四  古き世の迷妄絶ちて照らしだす科学で拓く進歩の時代


観念論とは何か?

四八五  対象となりし事物は感覚と思惟が作りしものにあらずや


『純粋理性批判』

四八六  ものごとをそれは何かと見極める理性は神に及びうるかは


認識論のコペルニクス的転回

四八七  感覚をカテゴリーにて統合し構成したるが事物なりしか


感覚の形式としてのカテゴリー(範疇)

四八八  物はみな時空の中に現れぬ、そは感覚のカテゴリーかは


『実践理性批判』その1道徳性とは何か?

四八九  欲望や利害を求めて行へば、法に適へど道徳性なし

四九〇  よき事を好みてすればなけれども、いやいやすれば道徳性あり


『実践理性批判』その2定言命法

四九一  自らがなすべきことを決するに、たれもがなすべきことをえらべや


『実践理性批判』その3目的の王国

四九二 たとへ身は手段の王国(くに)にありとても、魂(こころ)は常に目的の王国


『実践理性批判』その4 道徳の要請としての宗教

四九三  たとへ身は現象界に朽ちるとも永遠(とわ)の魂清らに輝く


フィヒテー自我(絶対我)の哲学

四九四  屈辱の亡国の世にドイツ人自我に目覚めて祖国築けや


シェリングー美的観念論とロマン主義

四九五  ローマンなパトスによりて我と汝(なれ)この断絶をいざ乗り越へむ


ドイツ観念論哲学の完成者ヘーゲル

四九六  古き世の終わりを告げて馬上ゆく世界精神まばゆく光る


 
即自⇒対自⇒即且対自 

四九七  丸裸生まれたままは人なれど、己を知らでまだ即自なり

四九八  世にもまれ己をみつめて人として自覚を得たらば対自なるべし

四九九  人の世の闇と光を知り尽くし己の道行く、即且対自や


自由の発展としての世界史              

五〇〇  自らが生きし時代に行き当たる課題を果たすが自由なるかな


ヘーゲル弁証法のイロハ

五〇一  花なれどつぼみのままで咲かぬなら、花を花とは呼ばれぬものを

五〇二  人の世の矛盾見据えて、発展の道筋つかみ熱と光を


家族・市民社会・国家

五〇三  愛(いと)しさに自然の契りに結ばれて作りし家族、愛の人倫

五〇四  糧得むと業の一つを分かち持つ、市民社会は欲の体系
五〇五  争える市民社会を調整し、理性で築く人倫の国
 

 

 

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