あとがき

  本書は谷沢書房刊『 月刊 状況と主体』1990 年七月号・九月号・十月号に連載された「二千年代に向けてーヤスパースの歴史哲学―『歴史の起源と目標』―」、及び1993年十月号・十一月号・十二月号・1994年一月号に連載された「二千年代に向けて―歴史はクライマックスへ―フランシス・フクヤマ『 歴史の終わり』について―」をまとめ、その後の情勢の変化に即応して部分的に改稿したものである。またプロローグとエピローグは本書のために新たに記したものである。

 1985年以降の「社会主義」世界体制の大崩壊と、その後の世界市場の統合の進展、新世界秩序への胎動は目を見張るものがある。折しも西暦一千年代が終わろうとしている。この機会に人類のこれまでの歴史を総括し、次の千年間を展望しうるような歴史哲学が生まれてくるべきである。その意味でそのきっかけ造りを意図した拙稿「二千年代に向けて―ヤスパースの歴史哲学―『歴史の起源と目標』 」はタイムリーであり、好評を得たようだ。

 そうこうするうちフランシス・フクヤマ『
歴史の終わり』 が話題を集め、歴史終焉論争が盛んになってきた。しかしその内容はかなり後ろ向きの議論が多いようで、ヤスパースのような人類史を将来の真の統合まで見通して、二つの呼吸に総括するような気宇壮大な議論は見られない。そこで私がでしゃばって『月刊 状況と主体』にフクヤマの歴史終焉論批判を書かせていただいた。

 『月刊 状況と主体』 の岡田道枝編集長の存分に書かせる姿勢の御陰で伸び伸びと意欲的な仕事ができた事はまことに感謝に堪えない。更に広く世に問おうとしたが、現在の困難な出版事情の下では、なかなか機会に恵まれない。出版を勧めていただいた故廣松渉先生には、1993年末に入院中とも知らず、相談の手紙を書いた。退院後読まれた先生は心当たりを当たって下さったが、今は不況で時期が悪いとのご返事であった。その後、まさか五カ月後に訃報に接するとは、重病人に要らざる心配をかけた事が悔やまれてならない。それだけに本書の出版には廣松渉先生への思いが龍っていて、感慨ひとしおである。

 廣松哲学批判は私のライフワークの一つである。先生は私の最大の論敵であったし、これからもあり続ける。そんな私にも力を貸そうとされた先生のご厚情に報いる為に、いずれは本格的な廣松哲学批判の著作を発表したいと念願している。

 なお本書の出版の為には大東文化大学の森川展男氏にひとかたならぬご尽力をいただいた。私の仕事上の行き詰まりに関してもご夫婦で親身になってご助力いただき、実質的にも精神的にも強い支えになっていただいた。そして藤田友治氏の力強いサポートと励ましのお陰で本書の出版が実現した。心より感謝する次第である。

 最後に一言、前著を世に問うて既に九年が過ぎた。その間相変らず研究条件に恵まれない私の悪戦苦闘を温かく見守り、励ましてくれた友人たちやしわ寄せに耐えてくれた家族に感謝の意を表しておきたい。また三一書房の林順治編集部長には、厳しい出版事情にもかかわらず、温かい良心的なご配慮をいただいた。ここに深く感謝する次第である。

 

歴史の危機

1995 8 31 日 第1 版第1 刷発行  Printed in Japan

著者 やすいゆたか 

発行者 畠山滋 

印刷所 暁印刷株式会社

製本所 有限会社東明製本

発行所 株式会社三一書房 

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