ロト的人間

 アブラハムは、神への絶対帰依つまりイスラームを貫いたわけで、神から子孫が地上を支配する権利を保証されました。その甥であるロトも信仰を貫いた正義の人なんですが、いくつかの特徴的な性格が取り出せます。まず悪徳の町ソドムに居て、悪徳に染まらなかった硬骨漢です。おそらくソドムに住んでいますと、ホモ・セクシュアルだけでなく、賭博やアルコール、麻薬、風俗その他の歓楽が溢れ、窃盗や詐欺や贈収賄などが日常茶飯事のごとく起こっていますから、悪事に手を染めないと、付き合いもしにくくなり、商売もうまくいかないこともあったでしょう。そういう中でトーラーをきちんと遵守するのは大変です。現在でも業界や社内の気風でダーティな部分が許容されていますと、自分だけ清廉なやり方に固執していますと協調性がないとして、排除されがちです。みんながいじめ
ていると、それに加わらないと、今度は自分がいじめられるみたいなところがあります。

 「赤信号みんなで渡ればこわくない」といって気軽に悪に染まりがちな中で頑固に正義を貫く人だけが、神の御恵みを受けられますし、そういう少数の正義の人によって、アブラハムと約束されたように、町全体が滅びから救われることもあるのです。神は多数の悪人たちを滅ぼすための犠牲に少数の正義の人をすることには忍びないのですから。

 問題は何が悪で、何が正義かの基準です。『バイブル』では神に与えられた「トーラー」によって定められているわけです。その内容は神が預言者に啓示したことになっています。偽預言者の唱える「トーラー」はもちろん偽のトーラーです。だからまず預言者が本物かどうか見極めなければなりせん。「夢のお告げ」などは、それが神のお告げなのかどうか、本人にも分かりません。覚めている時の啓示でも、幻聴なのかどうかは明確ではあり得ません。

   結局、民衆は預言者の言葉を信じて、信仰しているわけです。同性愛に関して、預言者の中には容認する者もいたかもしれません。おそらくソドムでは容認派の預言者に民衆の信仰が集まったのです。そうだったとしますと、ロトはソドムでは偽預言者、あるいは偽預言者を信仰するものとして排斥されたことになります。

 ロトは残念ながらソドムの町を救うことは出来ませんでした。結果としては、ソドムの町を破壊する審判者達を招き入れ、その破壊に手を貸した町の裏切り者に成ってしまったのです。でも神の意志には忠実だったので、ロトは宗教的にはあくまで正義の人です。後にイスラエルがカナンに侵入してエリコの町を滅ぼした時、エリコの町にはイスラエルに内通した売春婦がいましたが、彼女はエリコの町の人々を全滅に追いやるのに協力したので、宗教的には神の正義を貫いたと賛美されたのです。

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