ノアの方舟は実在するか?  

 話が長くなりすぎたので節を変えますが、「ノアの大洪水」の記事は歴史的に起こった 大洪水の伝承に基づいているのです。『バイブル』を遺したヘブル人達はセム族系でバビロニアの出身です。つまりメソポタミアに住んでいたわけです。チグリス・ユーフラテスの流域の渓谷には大洪水の跡と見られる地層の断絶があるそうです。アッシリアの都ニネヴェの発掘で紀元前七世紀の王室図書館跡から出土した粘土板文書の中に『ギルガメシュ叙事詩』があります。そこに「ノアの洪水物語」にそっくりの話が載っています。紀元前六世紀の新バビロニア王国はこれを継承していましたから、バビロン捕囚で連れてこられ たユダヤ人達はこれをもとに「ノアの大洪水」の説話を造ったと言われています。

 『ギルガメシュ叙事詩』でノアに当たる人の名前はウトナピシュテムです。信心深くて 神から洪水の予告を受け、方舟を造って難を逃れるように監督されるところも同じです。家族や動物たちも乗り込むところまで同じです。ノアの方舟が漂着したのはアララト山ですが、アララト山は現在のブルガリアの最高峰でして、『バイブル』では山頂となっていますが、中腹に方舟の残骸らしきものが発見されたことがあると報道されています。ソフィア寺院にはその残骸の板が祭られているそうです。現在アララト山は治安が安定していないので、入山が制限されていて、学術調査ができていませんが、中腹にある「方舟の残 骸」とおぼしきものの正体をぜひ知りたいですね。

 ノアはアララト山でまずカラスを放ちますが、戻ってきません。次に鳩を放ちますが、 足の裏をとどめる所が見つからないので戻ってきます。七日後に放つとオリーブの若葉をくわえて帰ってきました。さらに七日後に放つともう戻ってきません。それで水が引いたと分かるのです。ウトナピシュテムの方舟は、ニシル山に漂着しました。彼はまず鳩を、次にツバメを放つと帰ってきました。三番目に大ガラスを放つとこれは帰ってきませんでした。

 大洪水で人類のほとんどが滅んでしまったという説話は、地球上至る所にあります。古代ギリシアにはアトランチス伝説があり、大陸の沈没が伝説されています。大西洋をアトランチック・オーシャンというのは、アトランチス大陸があった海という意味なのです。そして古代ギリシアでは人類のほとんどが絶滅する大洪水が循環的に起こって、歴史が繰り返すという運命論的な循環史観があります。

 ギリシア神話では、神々の王ゼウスが人類の堕落から大地を清めるために大洪水を起こします。予知能力のある半神プロメテウスに教えられて予め用意した船で、パルナッソス山の頂に漂着したのがデウカリオンと妻のピュラーだけでした。デウカリオンは神から望みを聴かれ、人間の種族を増やしてくれるように望みました。すると神に「母の骨」を拾って背後に投げるように言われます。「母」は「大地」を意味すると悟ったデウカリオンが、石を拾って背後に投げますと、石は男になりました。妻のピュラーが投げると、今度は石が女になったのです。

 大洪水でほとんどの人々が死んでしまうという惨事が、いろんな地方であってその時の伝承が語り伝えられているわけです。そして大洪水を神による審判と捉えていた敬虔な人で、ノアの家族のように方舟で救われた例もあったかもしれません。それにしても巨大な方舟ですね。長さは三百アンマー(百五十メートル)、幅は五十アンマー(二十五メートル)、高さは三十アンマー(十五メートル)です。これを八人家族だけで建造するのは大変だったでしょうね。ところで漢字で「船」は「舟」遍に「八口」です。八口は八人という意味ですから、この漢字の起源と「ノアの方舟」は関連があるという解釈があります。

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