エコロジーの問題  

 神中心か人間中心かという問題の他に、人間中心か自然中心かという問題があります。「創世記」では神は人間に動植物をすべて与え、支配するように命令されているでしょう。その御陰で自然が破壊され、地球環境が危機になっているんだから、大問題です。

 人間が自然を支配するという場合、好き勝手に地球環境を破壊していい筈はありません。 そんなことをすると、支配者である人間自身に必要な自然環境まで破壊してしまい、人類が絶滅することになります。人間が健康に暮らすには、美しい空、澄んだ空気、きれいな水、豊かな森、魚がたくさん生棲できる海が必要です。ところが近代の産業の発達は、最大限利潤の獲得という資本の論理に支配されて成し遂げられました。資本が増えそうなことなら、たとえ自然環境を破壊することになっても産業の発達として歓迎されました。その結果、今では地球は北極圏の白熊やアザラシまで、汚染された魚を食べて大量死する有 り様で、かつてない地球生命の危機を迎えています。豊かな水と生命の星という地球環境は、すごく壊れ易いバランスの上で維持されていて、まさに「奇跡の星」という名がぴったりです。特にオゾン層の御陰で地上の生命は紫外線の脅威から辛うじて守られているのに、最近オゾン層が薄くなり両極地と北アメリカ大陸に大きなオゾン・ホールができてしまいました。そこで先進工業諸国はその元凶の一つとされるフロンガスの製造停止や廃棄を進めていて、一九九五年までにフロンガスの生産停止まで決めたのです。でも新興工業諸国ではまだ生産を続けています。今後急成長が予想される中国やインドでフロンガスの 製造が禁止されないと、とても地球は持たない筈です。

 大気汚染に伴う酸性雨の被害も拡大し、どんどん森林が枯れています。そして途上諸国 は熱帯雨林のジャングルの開拓を進め、砂漠も急速に拡大しています。どれだけ破壊が進めば、環境のカタストロフィ(大崩壊)が起こって、人類がいつ絶滅するのか予測するのは難しいのですが、相当深刻な状態にあることは確かです。ぐずぐずしてたら手遅れなんです。

 こうなったのは『バイブル』で人間の自然支配を肯定していたからと言えるのでしょうか。人間の自然支配の肯定は、何も自然破壊の肯定ではありません。こんなに海や空を汚し、北極熊まで中毒死させてよい筈はないんです。人間はバイブルの言葉に甘えて、奢りがあり、乱暴に自然環境を破壊しました。だから『バイブル』の表現も大いに反省の必要はありますが、神による人間の自然支配の許可は、人間に神が与えた自然環境を、人間の理性で責任を持って守り管理するようにという命令だと受け止めるべきです。ところが人間は環境保護には理性を働かせないで、脇目も振らない利潤追求にばかり理性を使ったの がいけなかったんです。

 神が人間に自然支配を任せたのは、自然の調和にも目配りが出来る理性を持っていて、地球生命の中の理性の役割をしてくれると思ったからでしょう。ところが人間は私利私欲の固まりで、自然自身の理性としての働きをしてくれないのです。神もがっかりです。人間は、地面の塵から造られた、地殻の一部なんです。だから人間が自然の一部として、自然の事を考えるのは、地殻が自分を振り返っていることなんです。

 ところで人間には自我があって、その自我という捉え所がないものに固執しがちです。そして想像したり、推理したり、構想したりして世界を様々に解釈したり、改造しようとする自由な意識として自分を捉えます。それで動植物や自然全体と断絶させて、人間を捉えてしまいます。しかし所詮は地殻の一部に過ぎません。自然との代謝の中で生きているのです。結局は土だから土に帰るのです。だったら人間の意識も自然自身が意識していることになるでしょう。「山には山の憂いあり、海には海の悲しみが、ましてこの世の花園に咲きしあざみの花ならば」と『あざみの歌』で歌われています。私達人間が身を引きちぎられる思いで自然破壊を憂えているのは、同時に自然自身が我が身を憂えていることでもあるんです。

 実際、自由に考えているようでも、人間の考える内容は自然や社会の状態によって決まってきます。自然を破壊するような考えや行動もある程度はできても、それに徹したら、人間自身の存続がどんどん危うくなります。その意味で、結局人間は自然再生に向けて理性を大動員せざるを得ないんです。それができなければサバイバル(存続)する資格はありません。『バイブル』の神の審判も、人間が自然の一部であることを忘れて、自然を自分のあさはかな私利私欲の為に破壊してしまうことに対する「自然の復讐」を、神による審きとして受け止めた考えかもしれませんね。『バイブル』のこの箇所も、舌足らずのと ころは補充して、それを訴えていると解釈しておきましょう。  

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