あつものと長子権の交換
アブラハムは一七五歳で亡くなっています。イサクは六〇歳の年になっても子供に恵まれませんでした。イサクが神に祈ってやっとイサクの妻リベカは双子を生んだのです。双子たちは胎内でも押し合っていたそうです。兄はエサウで弟はヤコブという名前です。
兄は活発で狩猟者に成長し、弟は穏やかで天幕に住んでいました。つまり弟は家政を取り仕切ったり、家事をしていたのでしょう。兄エサウは父の、弟ヤコブは母のお気に入りだったのです。ある日、エサウが飢え疲れて狩りから帰ってきた時、ヤコブはあつものを煮ていました。空腹のあまりエサウがそれを欲しがったのです。それでヤコブは、長子権を譲ってくれればあつものをあげるといって、長子権と引換えにあつものを兄に食べさせのです。「だからエサウは、それからあつものに懲りてなますを吹いていたそうです。」とは書いていません。でもそんなの口約束だから、法的拘束力はないと思われるかもしれませんね。たしかに誓約書を書かされたとはありませんが、誓約は神かけてするものです。だから、無効にはできなかったのでしょう。
イサクは飢饉があって、ゲラルのペリシテ人の土地に寄宿しました。そこで神の祝福で豊作になり裕福になります。羊の群れもたくさんになったりしたので、追い出されます。それでベエルシバに移って平穏な生活を送っていました。ところが長男エサウは四十歳の時、ヘテ人の娘を二人、妻にしたのです。これが問題なのです。だって血統や宗教の問題もありますから、ヘテ人の娘では困るのです。
でもイサクはエサウに祝福を与え族長権を与えるつもりでした。イサクは自分が年老いて目が見えなくなって、いよいよ死期が近づいたと思い、エサウを呼んで、鹿の肉をとってくるように命じて、祝福を与えようとしたのです。これを聞いた母リベカは、弟ヤコブに継がせたかったので、ヤコブに家畜のやぎの子を取ってこさせ、それを鹿の肉の味に調理して、父の元に先回りして持っていかせたのです。
そうやってうまくエサウを装って、ヤコブが祝福を受けてしまったのです。その後でエサウが鹿の肉を持っていきましたが、時は既に遅く、やり直しは効かなかったのです。エサウは怒って、父が亡くなったら、弟を殺してやる、と心の内で言ったのです。心の内の言葉をどうして聞いたのか分かりませ
んが、エサウの言葉を人づてに聞いたリベカは、ヤコブをリベカのハランに住む兄ラバンの元に逃がしたのです。