やすいゆたか短歌集六〇一〜七〇〇

 

六〇一 ただ一度生きるが故に夢に生き夢に死なむといざ桶狭間

六〇二 試みに飲まず食わずにおりしなば、意識朦朧幻想もなし

六〇三 それぞれの話につながりまるでなしいかでつけるや本のまとまり

六〇四 ばらばらの人生生きる人でさえ己超えたる命引き継ぐ

六〇五 フィクションでたとへ百年生きたれどリアルに戻ればたかが百分

六〇六 読者をも穴に取り込み参加さすファンタジーを読む読者ありしや

六〇七 精神の自由奪われ演技する役者にありや自我の自由は

六〇八 有り得ない設定の中苦悶するその人物も幻想の人

 

         200565

筒井康隆著『虚航船団』の人間論    

六〇九 ベトベトと糊に陰部をまさぐられ目覚めてみると『虚航船団』

六一〇 脚まげて円を描くのはダサすぎるスックのばしてクルリひと舞

六一一 泣き疲れ我を忘るるばかりなり涙の中へと解き放たれむ

六一二 ゴキブリが知性体へと進化するそれはありだが文具までもが

六一三 文房具目、口、頭脳の欠けたればいかで思ひて物を語るや

六一四 漆黒の宇宙を旅する船の中ノーマルこそがアブノーマルかな

六一五 文房具身近にありしその故に、人キャラ示すサインならめや

六一六 アニミズム栄えし星は文具さえマイコンつけて心与えき

六一七 分業で文具になりしムーピーが世代重ねて形定まる

六一八 文房具人と一つになりし故人の心は物の心か

六一九 ドライバー車の思考にならぬならいくつあっても足りぬ命か

六二〇 十桁の数字が揃うと快感か揃って消えるくるめきの時

六二一 末梢の快に溺るる事なかれ、戦い忘れば部隊滅びぬ

六二二 凶悪な鼬滅ぼす聖戦は、己滅ぼす戦いならずや

六二三 環境や事物を含めて人間を捉え返すが新世紀かな

六二四 凶悪な欲望に生く鼬こそ衝動止まらぬ人の姿か

六二五 衝動と理性の断絶乗り越えてカタルシス生む夢の世界へ


「番外篇哲学とはなんぞや」の挿入歌
六二六 一つとて確かなことは知らざれど知に焦がれたる吾は愛知者

六二七 独断を退けて立つ哲学も己過信し、独断に堕す

六二八 実験と観察をもて確かめし事実の他に何が真理か

六二九 疑いの果てに行き着くその先の疑いし吾、疑い得ざるや

六三〇 疑いしそのことだけは疑えぬ、そこから吾は導き得るかは

六三一 疑ひの闇路さすろふ吾ゆえに神の光の照らさで生くるや

六三二 お互いに欠けたる同士支え合い命の環結び生くるにあらずや

六三四 踏みつけし石の中すら神を見る、神観念を持たざる証しか

六三五 経験を取りまとめてぞ生まれけむ物てふ観念、物も意識か

六三六 感覚をカテゴリーにて整理して対象(もの)構えたりこれぞ認識

六三七 感覚でつくりし花も太陽も意識としては己が姿や

六三八 意識には現れ得ざる物自体故になきとは言われぬものを

六三九 感覚の束が事物と言ふものの、現れの元外にあらずや

六四〇 この吾とかこめる世界(コスモス)あるならば、作りし神のあらであるまじ

六四一 物知りて何なすべしか決めし故、その主体たる魂(こころ)あらずや

六四二 考える過程と別に吾ありて思惟を生むとは絵空事かは

六四三 経験を重ねしうちに判断の基準が生まれ、吾ありとせり

六四四 物事を客体として捉えるは、主体がありてその後のこと

六四五 感覚に生理対応重ねつつ欲を満たせり本能のまま

六四六 人のみは感じた中身を述語づけ己の外に物を見出す

六四七 物立ててそを意識すとせしならば、意識以前に物ありきなり

六四八 物こそは意識の束とみなしなば、意識は物の営みともみゆ

六四九 認識を主観の行為と決め付けて、物の現れ気付かざりしか

六五〇 人間の意識を生みて自己保つ事物の営み忘れざらまし

六五一 認識を物の側から捉えたる認識論の逆転発想

六五二 人間を身体のみにかぎるまじ、事物含めた人間観へ

六五三 意識をば物と見なして成立す、人の認識倒錯なりしか
六五四 感覚は生理作用に違わねど物が己を刻みしものぞ

六五五 意識なく主体性なき客体が意識つくるといふは飛躍か
六五六 吾が心怒り悲しみ決断す、そを生みもの吾が身のみかは
六五七 何背負い人は己を見出すや、重ね着したるかかわりの中
六五八 自由なる主体性など幻想か、構造知れぞ鬱に堕つれば
六五九 網の目を泳ぎ渡りて可能性、花開かせよ一度の人生

エラスムス『痴愚神礼讃』のパロディ
六六〇 はじめての主役ふられて張り切るも痴愚女神ではちょっと惨めか

六六一 痴愚女神現れ出でたるそれだけで笑い転げてみんな幸せ
馬鹿を見て笑ろてる自分に馬鹿を見る馬鹿にこそある人のぬくもり
六六二 エラスムス平和の訴え引っさげてモリアにまみえる大阪の町

六六三 馬鹿になり国家非武装選べるやそれとも利口に改憲すべしや

六六四 霊ありて社に集まる信仰を総理の名もてするはイケン(違憲)や
六六五 帝国の支配侵略犠牲者の御霊祀らず戦犯祀るな
六六六 野の花は華麗に装い咲きたるを何の不足もあるまじものを

六六七 便利さを求めて築きし文明に首絞められてもがき苦しむ
六六八 いまさらに原始の昔に帰れねど命の循環保つ工夫を
六六九 豊かなる国に生まれし若者は怠惰になずむハングリー欠け
六七〇 生まれ来る子の数減りぬその分を招き入れてぞ人手保たむ
六七一 財政の赤字膨らむそれゆえに増税すれば赤字へるかは
六七二 増税は所得吸い上げ経済を停滞させて赤字まさずや

六七三 統合の時代始まる、経済は一国単位時代遅れや

六七四 人間の理性は痴愚の現われか、苦しみの因生み出すばかりや

六七五 本源の痴愚に帰りてまぐわいぬ、この世のすべては痴愚が生みしか

六七六 子育てに若さと別嬪吸い取られそれで幸せ見上げたモリア

六七七 痴愚ゆえに可愛いものよ子供らは、悪態つかずに笑顔ふりまく

六七八 化粧品のべつまくなし塗りたくり、肌が荒れぬかそれが心配

六七九シンプルな馬鹿でも分かる原理こそ成就の鍵ぞビッグな仕事

六八〇 幻想とうぬぼれなしで生きられぬ、棺桶までも夢を忘れじ

六八一 老いらくの恋も元気のもとなれば責めたまふまじ見苦しいなど

六八二 一介の大工の息子が人類の罪贖うと言うはモリアか


『ヤマトタケル』
六八三  ケレンにてワクワクさせたその上の哀しみのあるせりふ胸打つ

六八四  ただ一人熊襲の宮に乗り込みてたはむけやはせし超人ありしや

六八五  人麿はヤマトタケルに事寄せて皇国(くに)の簒奪明かしたるかな

六八六  皇子たちのやさしき義母を演じつつ心の闇を彷徨えるかな

六八七  賢しらの知恵で治める藤の葉に惟神(かむながら)の道光絶えたり

六八八  吹き抜けし跡に残せる屍の山堆(うずたか)き荒ぶる神や

六八九  天皇に祀られてこそ神となる皇国(スメラミクニ)か民主日本

六九〇  雲寄する神の剣が勇ましきタケルとなりて燃ゆる野を刈る

六九一  若者よ命あふるるその日こそ樫の葉を挿せ命わするな

六九二  戦いに果てよと曰(のたも)ふその代わり蝦夷の国くれると云ふ君

六九三  親も嘘、戦も嘘のかたまりや、真実求め闇を見据えり

六九四  燃ゆる野に吾が名を呼びし君のため、死ねる幸せ歌に託せり

六九五  天翔る白鳥なりやわが心まほらま求め向かふはいずくぞ

六九六  君待ちて月経ちにけりそのあまり焦がるる想い裳すそ染しか


『穴の中の哲学者』
六九七  ムツゴロウ独居の穴に籠もりつつ誇り気高きムツ精神や

六九八  諫早の干潟に住みし壱億の民の命は尊とからずや

「おようの尼」
六九九  念仏も忘れて商売励みおる尼の信心真仏土かな


2005年10月3日

「ヤマトタケルの大冒険」

七〇〇 タケルなる強き男に抗うに弱き女に成るに如かずや

七〇一 父ならば死ねと言うなら死にもしよ言葉飾りて心隠すな

七〇二 スサノウと剣とタケルは異なれりそを一つとはいかな回路や

七〇三 燃え盛る火中に立ちて我呼びし、その幸せに何を惜しむや

七〇四 汝ははやタイタンの妃や水底に棲めるなまずの餌食ならずや

七〇五 裳の裾に月立つとせば雅なり穢れの色に心ときめく

七〇六 剣持ち震え上がらせたはむけるやがて剣に身を滅ぼせり

七〇七 幾重にも山脈囲める大和なる吾がふるさとは国のまほろば

七〇八 白鳥はいずこ目指すや天翔りいとしき女は他人の妻かは

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