青年心理篇

人間とは何か

 人間を問いしこの道四十年めぐりめぐりて太極に立つ

先生:太郎君、人間とは何か考えたことがありますか。

太郎:ぎょ、そりゃあいつも考えていますよ。だって考えることが人間たる所以ですから。

花子:あざやかに返したわね。たしか「人間は@(        )である」とパスカルが言ったわ。考えることで人間は全宇宙より偉大だなんていうわけでしょう。それにしては考えもなく、戦争をしているような気もするけれど。

先生:だからこそ考えるという本性を強調すべきなのです。現生人類に学名をつけるときにリンネが理性的な特徴をとらえて、A(          )と名づけました。それが人間観として深められて、単なる智恵が発達しているというだけでなく、物事を深く思索し、生きる意味や価値や崇高性などについても考える存在という意味で使われています。

太郎:ベルグソンは環境に働きかけて、環境を作り変えて獲得する工作人として人間の特長を捉えたのでしょう。花子さんこれをなんというでしょう。

花子:B(         )ですね。動物は環境の変化に適応するために種を進化させるしかないのですが、それに対して、人は逆に道具などを発達させることで、環境の変化させて人間に合うようにできるわけです。でも環境を獲得するといっても、実際は環境を破壊しているのでは、B(         )としても失格ですね。

太郎:だからこそ「人間はB(        )だ」ということを自覚し、環境に対する責任を背負うべきなのですね。


先生:良いこと言いますね。工作人観にはいろんな人間観が含まれます。「言語を話す動物」だとか「道具をつかう動物」とかも入ります。労働が本質だというのも工作人観に含まれます。先ほどのA(      )と区別して、何かを使って環境を獲得するのを全てB(       )だとしたのです。つまりB(       )だけだとまだ不充分で、価値や命の意味や崇高性まで考えるべきだというわけです。科学や数学だけではまだ人間としてだめで、倫理や哲学までいかないといけないということですね。


花子:他に遊ぶことが人間の本質だというホイジンガのC(       )という人間観もあるのでしょう。


太郎:日本史で習いましたが、後白河上皇の編纂した『梁塵秘抄』に「遊びをせんとや生まれけむ、戯れせんとや生まれけむ」という言葉がありますね。


先生:これがよくセンター試験でも出ています。遊びとはまず何より現実的な必要から離れた、
D(     )です。でもそこには一定のルールがあってそこから文化が発達したというわけです。


花子:スポーツは元々遊びだったけれど、勝負の結果にこだわると遊びじゃなくなるわけですね。それに遊びは根源的には神や自然と一体化したり、聖なるものを体験する意味もあったのでしょう。ところで先生はどの人間観を支持されているのですか?


先生:その前にアリストテレスが「人間は本性上、E(        )である」と言いましたね。マルクスは労働が本質だとも言いましたが、「人間の本質は、現実的にはF(        )の総和(アンサンブル)である」と社会的人間観を強調しています。

 人間観の問題は、どれか一つが正しいというような択一問題じゃありません。人間を問題にする時の問題意識によってどれを重視するかが決まってくると思います。「人間への問」は、本質は何かだけでなく、どのような状態に置かれているのかでも論じられていますし、何を人間に含めるのかも議論されています。人格的個人だけではなく、環境的自然や社会的事物も含めた人間を捉えるべきだという議論です。この分野では私は最先端の議論をしています。「やすいゆたかの部屋http://www7a.biglobe.ne.jp/~yasui_yutaka/ を参照してみてください。

問 上の( @ )〜( F )に下の語群から適当な語句を選んで記入しなさい。

社会的諸関係  ホモ・サピエンス  ホモ・デメンス  ホモ・ルーデンス    ホモ・ファーベル 
ホモ・ロクエンス  ポリス的動物  シンボルを操る動物
  パンツをはいた猿  考える葦  自由な行為

 青年期の課題と自己形成
   
          十七の吾は未来を指差して吾がものなりと豪語したりや


先生:@(   )は『エミール』で青年期の開始をなんと表現しましたか?花子さんその個所を少し読んでみてください。

花子:「私たちは、いわば二回この世にうまれる。一回目は存在するために、二回目はA(   )ために。はじめは
B(     )に生まれ、次は男性か女性に生まれる。」


太郎:答えは「C(      )」ですね。ただオギャーと生まれるだけでは、まだ自分はできていないわけで、自分とはなにか、どうみられているか他人の目を意識した時に、自分が生まれる。これがD(      )です。そのきっかけになるのが生殖器が成熟し始めるE(     )ですね。


先生:そこでどうしても内心に不安や驚きなどが錯綜して、落ち着かなくなり、F(        )で暴れたり、落ち込んだりするものなのです。

花子:自分のG(    )を見つけたいと思ってスポーツとか書道とか、音楽とか色々やってみましたが、結局どれも中途半端で。それでも文化を身につけて社会で通用して生きていかなければならないというので、勉強をやらされているという感じかな。

太郎:自分が見つけられなくて、ただH(    )することだけだとおもしろくないよね。受験体制というのは、そういう意味で人生を面白くなくしているとも言えるのかな。

先生:そういう面もありますが、受験でもまれる中で、自分の個性を見つけ出すチャンスでもあります。H(    )というのもただ社会に適応しようという受身だけでは駄目です。幸福を感じる為には社会の中で自分の個性を発揮し、I(     )することとして積極的に捉えて欲しいですね。

花子:でも大人になることにはすごく抵抗感がありますね。何か大切な純粋な自分がなくなってしまうような。結局妥協していきていくしかないみたいで。

太郎:もっと自信を持てよ。何かやりたい目標とか、なりたい目標決めて、それに向かって若さでぶつかっていかないと。

先生:ほう、太郎君は目標があるのですね。

太郎:ええ、社会の不正と戦う弁護士になりたいと思っています。

先生:そりゃあ頼もしい。将来の職業まで考えて、自立しようとしているわけで、これを親からのJ(      )と呼んでいます。青年は「まだ大人じゃない」とか「もう子供じゃない」とかどっちつかずで、しかも両方に属しているような感じで、これをレヴィンは何と呼びましたか。

花子:はい、英語でK(        )(境界人)です。エリクソンは青年期を大人になるための猶予期間という意味で、太郎君英語で何と言いましたか。

太郎:ええっとL(       )でしたかね。たしか前近代だと子供から大人になるのに抜歯や入墨、元服式などの通過儀礼、英語でM(           )があって、それに合格すると一足飛びに大人になるけれど、近代では社会が複雑なので、適応するために養成期間が必要になります。これが青年期ですね。


花子:エリクソンによると戦後は青年期が延長される傾向にあるのでしょう。

先生:ええ、大学進学率が高くなって、自分の生涯の職業を固定する時期が青年後期やそれ以降にずれていっているのです。これが自分の生き方で自分の職業だと自分を肯定的に捉えられるようになることをエリクソンの用語で何と言いますか。

太郎:「N(       )の確立」ですね。青年期ではなかなか一つに決められなくて、N(       )が拡散してしまいやすいのですね。それでも、成人になって一つの職業に固定していると、その職業自体が社会の変化でなくなったりして、大変なことになる場合もありますね。

花子:ですから最近では、成人後もN(        )の固定を避け、常に転身できるように「あれも、これも」自分の可能性を追及する『O(           )の時代』だと小此木啓吾が言ってるのでしょう。

先生:その通りです。私は小此木啓吾について論文(ホームページで読めます)にまとめまして、雑誌に連載し、彼から『映画の精神分析』という著書をいただきました。

問 上の( @ )〜( O )に下の語群から適当な語句を選んで記入しなさい。

アイデンテイティ マージナル・マン 人間 自己実現 ルソー 社会化 モラトリアム 個性 第二の誕生 第二反抗期 自我の自覚 第二性徴 生きる モラトリアム人間  心理的離乳 イニシエーション

  欲求・自我防衛機制

  無意識に自分を守るそのためについしてしまう哀しき性かな

先生:あれ、だれかおなかの虫が鳴いてるね。まだ一時限目だよ。

花子:夕べ夜更かししたもので、朝食が食べられなくて。@(       )ですね。まず低次の飢え・渇き・排泄・睡眠などの
@(       )が満たされてはじめて高次の欲求を満たそうとするのですね。


先生:マズローの「A(          )」ですね。下から順に@(       )安全の欲求、所属と愛の欲求、自尊の欲求、自己実現の欲求と高次化していきます。まず低次の欲求からというのは、儒教で「B(              )」といいます。しかし日本には低次の欲求よりも自尊心が大切だという諺もありますね。

太郎:「C(                   )」でしょう。

先生:相反する欲求で悩むのを何と言いますか。

花子:D(         )(葛藤)です。それから欲求がみたされないことを英語でE
(             )(欲求不満)と言いますね。きちんと合理的に解決できればいいのだけれど、やつあたりしたりするF(     )になっては困りますね。それから落ち込んでしまう失敗反応も困ります。


太郎:欲求不満がこうじて、自分のアイデンティティが危機になるのを無意識に防ぐ反応がG(          )ですね。これは保健の授業でも習ったかな。


先生:センター試験の選択肢の表現で言います。どれも意識的に行ったのではG(        )とは言えません。

まずH(   )は「社会的に受け入れ難い欲求や、苦痛を伴った体験の意識化を阻止し、忘却させる。」堪えられないことは思い出せないようになっているわけです。
次にI(    )は「失敗や望ましくない行為を正当化することによって、自己に対する否定的感情を回避させる。」つい自分に都合の悪いことは屁理屈をつけてでも納得しようとします。
そしてJ(   )は「より未熟な発達段階に逆行することによって、その段階で満たしていた方法で現在の欲求を満足させようとする。」いわゆる赤ちゃん帰りですね。
K(   )は「性的欲求など(低次の欲求)が満たされない場合、芸術など社会的に価値のある行動によってこれを解消しようとする防衛機制」です。別に高次な欲求でない場合はL(   )です。


花子:ミーハ―がアイドルと自分をM(    )して、自分の輝いていたいと欲求を満足させようとするのも防衛機制に入りますね。その反対に自分と同じ欠陥を他人に見出して、その欠点を自分が持っていることを忘れようとするのがN(   )です。


太郎:それからO(    )は、好きな人にわざと意地悪したりしてしまうような場合です。自分の抑圧している欲求を打ち消すように反対のことをしてしまうわけですね。


問 上の( @ )〜( O )に下の語群から適当な語句を選んで記入しなさい。

自我防衛機制 欲望ピラミッド フラストレーション 同一視 武士は食わねど高楊枝  コンフリクト アイデンティティ 抑圧 昇華 生理的欲求 衣食足りて礼節を知る  反動形成 退行 合理化 投射 攻撃反応 代償 

性格・生き方

奥底で天使と悪魔バトルする心の修羅は知られまじきや

先生:パーソナリティの三要素を挙げてください。

太郎:まず遺伝的性質が強い気が荒いとか、おとなしいとかの@(   )temperamentですね。それに知能やその他の技能などのA(    )ability、それから社会的に形成された意志的なB(  )characterです。先生、結局人間は遺伝や環境や社会に規定されているのだったら、犯罪行為は本人の責任とばかり言えませんね。

先生:いかに社会的な影響が大きくても、結局は自分の意志や決断によって行っているのだから、本人の責任は問われるべきです。もちろん社会の責任もありますから、犯罪のない社会作りを行う責任は社会人全体にあるわけです。

花子:社会にきちんと適応できるようにパーソナリティはC(  )しなければなりませんね。オールポートは自分を客観化できたり、他人を思いやり温かい関係をむすべたり、人生観を確立することを基準にあげています。

太郎:それぞれどんなことに価値や意義を感じるかは、個性によって違っていますから、自分の重点を置く価値にあった職業を目標にするということが、青年にとっては大切ですね。シュプランガ―が六つの類型に分類していますね。

先生:太郎君は社会正義を追及する弁護士を目指しているので、D(   )ですね。花子さんは芸術家タイプに見えるから
E(    )かな。


花子:その傾向もあるけれど才能的に無理だから。

太郎:芸術家は無理でもセンスを活かす仕事ならたくさんありますよね。

花子:私はそれよりとことん理論を追及するF(   )かもしれない。理工系は苦手だけれど、日本古代史の謎に挑戦してみたいの。

先生:そりゃあ素晴らしい。あまり女性の古代史学者はいないから脚光を浴びるかも。

太郎:その他に経済的価値に重点をおくG(   )や権力に最高の価値をおくH(    )もありますね。

先生:この分野は余り時間が取れないのでこの辺で切り上げます。

問 上の( @ )〜( G )に下の語群から適当な語句を選んで記入しなさい。

社会型 気質 理論型 性格 審美型 成熟 経済型 能力 権力型

センター試験で倫理に挑戦する人は、山川出版の『倫理用語集』『センター試験への道、倫理 問題と解説』を早速入手して授業と平行して勉強してください。

 

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