第六章 国際政治の動向と日本の役割
①今日の国際社会
第二次大戦後の国際社会
(東京大空襲とヤルタ会談の写真)
第二次世界大戦は、ドイツのナチズム、イタリアのファシズム、日本の軍国主義など枢軸国が手を結んで、植民地の再分割や勢力再編を目指して引き起こしたものでした。この戦争で連合国では3870万人、枢軸国では776万人が死亡したと推定されています。国家が総力をあげた凄惨な戦いだったわけです。大空襲にみられる絨毯爆撃、広島長崎の原爆投下など、地獄絵図が展開されたのです。細菌兵器毒ガス兵器の研究開発も行われました。
再び世界戦争を繰り返したら世界は滅亡するという危機感の下に、国際連合をつくり、国際連盟では機能しなかった集団安全保障体制を進化させたのです。
国際連盟の限界は次の三つです。
①アメリカなどの有力国が不参加であったり、脱退した。
②総会や理事会が全会一致で、少数国で決定を否決できた。
③違反国への制裁が経済的・外交的なものに限定され、軍事制裁がとれなかった。
そこで国際連合は安全保障理事会を設けて、常任理事国の五大国の一致を前提に、軍事制裁を含む安全保障上の措置をとれるようにしたのです。そして各国の軍隊を一定割合で安全保障理事会の下に動く国連軍に編入することを国連憲章に入れています。
ところが各国は自国の軍隊の指揮権を国連に委ねてしまうことになるので、憲法上無理だとして結局国連軍は発足していません。朝鮮戦争に際して、国連義勇軍が編成されましたが、国連憲章で規定された正式の国連軍ではありません。
ともかく戦後国際政治体制は米英ソの協調で決めていこうということが決まったのが1945年
2月のヤルタ会談だったので、戦後国際政治の体制をヤルタ体制と呼びました。この体制は冷戦終焉の1989年まで続きました。
冷戦の開始
(戦後の焼け跡写真とベルリン封鎖)
ソ連軍が第二次大戦後も東ヨーロッパに駐留し、東欧諸国をソ連の衛星国にしようとしました。イギリスのチャーチル前首相は、ソ連の勢力がギリシアやトルコに拡大することを恐れて、両国に軍事援助を開始しました。そして1946年3月5日に彼は
アメリカのミズーリ州で行った演説で、ソ連が勢力圏を作って、「鉄のカーテン」を下ろしていると非難しました。
アメリカのトルーマン大統領は新しい世界政策を展開します。議会への一般教書演説で1947年3月12日に宣言を行なったのです。それはギリシャ内戦(1946年
- 1949年)を始めとする共産主義に抵抗する政府の支援を特に目指しました。これは「トルーマン・ドクトリン」と呼ばれています。彼はギリシャとトルコが必要とする援助を受けなければヨーロッパの各地で共産主義のドミノ現象が起こるだろうと警戒していたのです。ソ連の全体主義と膨張主義を非難し、ソ連勢力の「封じ込め」を
ねらっていたのです。そして6月に米国務長官マーシャルは「欧州経済復興計画」を発表しました。これはソ連・東欧諸国にはソ連軍が撤退し、西欧諸国には共産党を野党にしなければならないというのが条件でした。こうして経済的にもソ連勢力を封じ込めようとしたのです。このプランを「マーシャルプラン」と呼んでいました。
こうした動きに反発してソ連・東欧そして西側諸国の共産党は「コミンフォルム」を結成して対抗しました。経済的には「コメコン」と通称された「経済相互援助協定」をむすびました。また1948～9年ソ連は東ドイツにあった西側のショーウインドウである西ベルリンを封鎖する「ベルリン封鎖」を行い対決は強まりました。西側諸国は、地域的集団安全保障体制だとして北大西洋条約機構(NATO)を結成して、反共の実質的な軍事同盟を結成しました。東側は後に1955年に西ドイツがNATOに加盟したのに対抗しワルシャワ条約機構を結成しました。これは東側諸国の軍事的結束を強めると同時に、加盟国の主権を制限し、反革命の動きに対しては軍事介入できるものだったのです。
朝鮮戦争
(朝鮮戦争とサンフランシスコ対日講和条約調印)
一方東アジアでも東西冷戦は激しくなりました。中国では日中戦争の間、抗日統一戦線を組んでいた国民党と共産党が内戦を再開し、ついに1949年に共産党が勝利し、中華人民共和国が建国されました。国民党は台湾に逃げ、台湾で国民政府の継続を宣言しました。それをアメリカが保護し、中国を代表する政府として承認していたのです。
朝鮮半島では冷戦のあおりで南北が分断されてしまいました。北に朝鮮人民民主主義国、南に大韓民国が建国されたのです。1950年に北朝鮮を支配していた朝鮮労働党の金日成は武力統一に乗り出し、大韓民国に侵略しました。これに対して国連の安全保障理事会は、ボイコット中のソ連が拒否権を行使できない機会を捉えて、国連義勇軍の派遣を決定しました。冷戦は朝鮮戦争では熱戦になってしまったのです。
日本は憲法第九条で、戦争放棄・戦力不保持・国の交戦権否認を宣言していたにもかかわらず、1951年にサンフランシスコ対日講和条約を東側諸国抜きで締結し、そのうえ日米安全保障条約でアメリカ軍の駐留を認め、防衛力の整備を行わざるを得なくなりました。西側諸国は日本に反共の防波堤、不沈空母の役割を求めたのです。
雪解け
(バンドン会議とフルシチョフの写真)
1953年にソ連の独裁者スターリンの死とともにデタント(緊張緩和)の動きが強くなりました。朝鮮戦争は停戦協定が結ばれます。1954年には周恩来・ネルー会談で「平和五原則」が確認され、ジュネーブ協定でインドシナの停戦が実現しました。
平和五原則
①領土保全と主権の相互尊重 ②相互不可侵 ③相互の内政不干渉
④平等互恵 ⑤平和共存
1955年には民族独立を掲げるアジア・アフリカ指導者がインドネシアのバンドンに集まり、アジア・アフリカ会議が開かれました。そこで「平和十原則」が打ち出されたのです。
アジア・アフリカの新興独立国の中にはいずれの陣営にも属さない中立諸国が多く、両陣営に平和共存を求める圧力となりました。そしてジュネーブで米英仏ソの四巨頭会談が開かれ、緊張緩和が加速しました。
1956年ソ連共産党大会で「フルシチョフ報告」というスターリンの個人崇拝に基づく恐怖独裁政治への批判が行われました。早速ソ連の支配に反発したポーランドやハンガリーで反ソ暴動が起こります。ソ連軍が介入して弾圧してしまいます。ソ連は東欧の暴動を武力で弾圧し、水爆保有や大陸間弾道弾の開発を進めて軍事力を増強したうえで、西側諸国とは平和共存外交を推進しました。
1958年からソ連は全面的な平和攻勢に転じます。この年の３月には核実験の一方的停止を宣言し、米英への同調を求めました（但し実際には不成功）。さらに59年９月にはフルシチョフが自らアメリカにのり込み、アイゼンハワー大統領とキャンプ・デービット会談を行ない、次いで国連総会で「四年間で軍備を全廃する」提案を行なったのです。私はまだ中学生でしたが、大変感動したものです。
互いに信頼できればいいのですが、ソ連はアメリカによる査察を受け入れませんし、アメリカも核軍縮が行われますと、欧州の地上兵力は東側の方が優勢だったので、ソ連に侵攻されると考えて、交渉はまとまりませんでした。
フルシチョフの「平和共存」政策は、アメリカ帝国主義との対決を強調する中国共産党との「中ソ論争」を惹き起こし、中ソ関係が悪化して、ソ連技術者の中国からのひきあげが行われて中国経済に打撃を与えました。
そして1962年の「キューバ危機」が起こりました。アメリカ合衆国ののど元にあたるキューバで社会主義革命が起こり、カストロ首相はフルシチョフに核兵器の搬入を求めたのです。この情報をキャッチしたアメリカのケネディ大統領は、核ミサイル兵器を積載したソ連の艦艇を検問して、引きかえらせました。もし米国の要求をソ連が拒否すれば第三次世界大戦の開戦必至という事態になり、自衛隊まで出動準備態勢にはいったのです。もちろんすでに一発で日本全滅という超巨大の二百メガトン級水爆の時代になっており、ああ高校生で人類とともに滅びるのかと思ったものです。
この時中国は「アメリカ帝国主義は張子の虎だ」と言い張り、たとえ戦争になっても中国は生き残るぞと北京放送でフルシチョフの弱腰を非難していたのです。しかし我々は妥協に応じたフルシチョフのお陰で今日生きているのです。
部分的核実験停止条約と核拡散防止条約
キューバ危機は、第三次世界大戦を回避するために超大国の果たすべき役割を自覚させ、米ソ二大超大国による分割支配と交渉の重要性を浮き彫りしました。また二大超大国支配に反発するフランスや中国などの第三勢力の動きも目が離せなくなったのです。
やっと1963年に地下核実験を除く核実験を禁止する部分的核実験停止条約(PTBT)が締結されました。なにしろ当時は核実験がこのまま継続すればその汚染だけで人類滅亡は必至だと考えられていたのです。どうせ禁止するのなら全面禁止にすべきなのですが、核兵器の維持管理のためにも地下核実験は必要だということでした。核兵器の禁止は軍事バランスをくずすことになるということで、結局放射能汚染対策として、締結されたのです。これにはこれから核実験を始めようとしていた中国とフランスは、米英ソによる核独占だと非難しました。
核兵器の拡散は、地域紛争や民族紛争にも核兵器が使用される結果をもたらしかねませんので、非核保有国が核保有国になるのを禁じ、核保有国が核開発技術の拡散するのを防止する義務を1968年の核拡散防止条約(NPT)によって規定したのです。この条約に加盟しますと、原子力発電所が軍事目的に使用されていないかIAEA(国際原子力機関)の査察を受けなければならないことになっています。もちろん中国やフランスは核独占体制だとして参加していません。
核拡散を防ぐためにも核兵器を独占している国々が、核兵器の廃絶に向けて真剣に取り組まなければ、やがて小型化、低廉化が進んでいくと、全ての国が核兵器を装備する危険な状態になるでしょう。
2006年現在核保有国は米・英・ロシア・フランス・中国・インド・パキスタン・イスラエルです。イスラエルは発表はされていないものの核保有は確実だとみなされています。イランは平和利用目的だと言っていますが、ウラン濃縮を開始しており核保有を目指しているとみなされています。核保有を断念したのがリビアと南アフリカです。そして最近北朝鮮が核兵器の保有を宣言し、核実験を強行しました。
日本は非核三原則で「核兵器を作らず、持たず、持ち込ませず」としていますが、「持込に」ついては原子力潜水艦のラロック艦長や元駐日米国大使ライシャワーの証言では、日本に寄港する米軍の原子力空母や潜水艦は核を搭載しており、事実上米国の核兵器で安全保障を図っていると言われています。これは「核の傘」と呼ばれています。
軍縮交渉と軍拡
核兵器を使った戦争、つまり核戦争を想定しますと、先制攻撃が非常に重要です。スパイ衛星で敵国のミサイル基地を調べ上げてそこを一気に核攻撃を加えますと、かなり有利に展開しますね。アメリカ合衆国の核戦略は従って先制攻撃です。それに対してソ連は、先制攻撃はしないと公言し、その代わりやられたら徹底的にやり返すという作戦でした。そのためにはソ連としては西側諸国の二倍以上の核兵器を保有しなければならないということになり、大量の核ミサイルと核爆弾を保有したのです。そのためにソ連経済は重い軍事費の負担に耐えられなくなり、経済の長期停滞が生じてしまったのです。
1969年から米ソ間で戦略兵器制限交渉(SALT)が始まりました。でもSALTの対象外の核兵器の開発が行われるので核軍拡はどんどん進みます。それで1982年から中距離核戦力(INF)削減交渉、翌年から全般的な戦略兵器削減交渉(START)を開始したのです。つまりソ連は経済的な事情から核軍拡競争を続けることはできなくなったのです。
冷戦の終焉
1985年、ソ連ではペレストロイカ(改革)を掲げたゴルバチョフ政権の誕生で、情勢は一変します。彼はペレストロイカを行うためには、共産党にとって都合悪い情報も含めて、グラスノスチ(情報公開制度)
ベトナム戦争
話をベトナム戦争に戻しましょう。1954年にインドシナ休戦協定が締結されてフランス軍が撤退したものの、休戦協定で規定されている南北統一のための選挙が実施されると、ベトナム全体がホーチミンが指導するベトナム共産党の支配下に置かれることになるので、アメリカが介入したのです。アメリカは南ベトナムにゴ・ジンジエムを使って傀儡政権を樹立させ、統一選挙の実施を破棄させました。それで南ベトナムでは1960年から南ベトナム解放を目指す南ベトナム解放民族戦線によるゲリラ戦が始まったのです。
アメリカにすれば共産主義の脅威から南ベトナムの人々を守っているつもりでしたが、インドシナではフランス領の時代から、ホーチミンの指導下で民族独立の戦いを続けてきたわけです。共産主義は植民地から民族を解放するイデオロギーとして捉えられていたわけですね。そういう人々に欧米人が救世主のようなことを言っても通じません。フランスに変わってアメリカが支配しにきたと思われるだけです。
アメリカによってベトコンと呼ばれていた南ベトナム解放民族戦線のゲリラ活動は活発になったので、北ベトナムからの補給を断つために1965年から北ベトナム爆撃が開始されました。北ベトナムではいたるところに地下道を掘って対抗したのです。畑や森林には猛毒の枯葉剤がまかれ多くの奇形児が生まれるなどの悲劇が起こりました。
世界最強のアメリカ軍が6万人以上の戦死者を出しても勝てなかったのです。だってベトナムの人々は祖国の独立を守り、統一を勝ち取るために戦っているわけですが、アメリカの人々は共産主義の悪魔からベトナム人を守ってあげようという反共意識だけです。やがてアメリカ軍はベトコン掃討を名目に村々を焼き払い、戦略村に閉じ込めるなど非人道的な作戦にでました。民間人とゲリラは区別がつかないので無差別殺戮が伴ったのです。世界の世論はアメリカの大義が信じられなくなり、ベトナム反戦運動が巻き起こりました。
欧米の価値観を非西欧世界に軍事力を伴って押し付けることに反発した欧米の若者たちは、物質中心の既成の文明に異議を申し立て、ヒッピーやフォークソングなどのカウンターカルチャー(反体制文化)を形成しました。これが1968年にはフランスの「五月革命」をはじめ全世界でスチューデント・パワーがキャンパス占拠などで決起する事態を生んだのです。
結局アメリカ軍は1973年に撤退し、1975年には南ベトナムの首都サイゴンは陥落してベトナムは統一されました。ベトナムの悲劇はそれで終わりません。戦争には強いベトナム人も、平和的に社会主義社会を建設するのは難しく、大量のベトナム難民をだすことになりました。ベトナム経済が安定するのは1980年代の後半にドイモイと呼ばれる経済改革を取り入れてからです。
カンボジア内戦
1960年代ベトナムの隣国カンボジア王国は1949年に独立以来シアヌーク国王が君臨していました。ベトナムと協調していましたので、北ベトナムから南ベトナムへの補給路を提供していたのです。そこで1970年親米派(ソン＝サン派、指導者ロン・ノル将軍)がクーデターを起こして、シアヌークを失脚させました。
それ以来カンボジアも深刻な内戦状態が続いたのです。ところが南ベトナムからの米軍撤退により、ベトナムが統一しますと、1976年カンボジアでは親中国派とみられていたクメール・ルージュ（ポル＝ポト派）が内戦に勝利し、民主カンボジア政権が成立しました。
ところがこのポル＝ポト派は、既存の社会を破壊することでカンボジアを作り直そうとし、学校・教会・仏教寺院などあらゆる制度や組織を破壊し、財産の私有や貨幣も廃止しました。その過程で百万人以上が粛清で虐殺されたということです。これを見かねたベトナムは1979年についに侵入して、プノンペンを制圧し、親ベトナムのヘム・サムリン政権を樹立させました。これに対してポル・ポト派、シアヌーク派、ソン・サン派は反ベトナム三派連合で対抗し内戦となりました。
東西冷戦が終結し、1989年にはベトナム軍がカンボジアから撤退したので1991年にカンボジア和平協定が成立し、1993年に国連監視下総選挙が実施され、シアヌークを国王とするカンボジア王国が成立しました。
中東問題
第二次大戦後ずっともめ続け未だに大きな戦争の火種になっているのが中東問題です。この背景になっているのが一神教内部の宗教対立です。現在のイスラエルのある地域はパレスチナと呼ばれ、第二次世界大戦までは主にアラブ人が居住していました。しかし古代にはユダヤ人が住んでいたのです。紀元後70年にユダヤ解放戦争に敗れたユダヤ人の多くはパレスチナを離れて、世界各地に離散していました。でも何時の日かパレスチナに戻ってイスラエルを建国し、ユダヤ教神殿を再建したいと念願していたのです。19世紀になって神殿のあったシオンの丘に戻ろうというシオニズム運動がユダヤ人の間で盛んになってきました。
20世紀になってドイツでナチズムが第二次大戦中ユダヤ人絶滅を掲げて、収容所で数百万人のユダヤ人を毒ガスで殺したと言われます。ユダヤ人迫害に胸をいためた欧米の人々は、ユダヤ人のイスラエル建国を支援したのです。一方パレスチナを統治していたイギリスは、アラブ人にも独立させる約束をしていたのです。
結局第二次世界大戦後国連で1947年に、パレスチナをイスラエルとアラブ人のパレスチナに分割することに決定したのです。これを受けて1948年にイスラエル建国が宣言されましたが、アラブ人たちはこれを認めず、第一次中東戦争になってしまいました。激戦の末イスラエルが勝利し、約70万人のパレスチナ難民が周辺アラブ諸国に移動しました。
第二次中東戦争は、スエズ戦争とも言います。1956年エジプトのナセル大統領がスエズ運河の国有化を宣言したのに対して、英・仏・イスラエルがこれを認めないので戦争になってしまったのです。
1964年にパレスチナ難民が組織されパレスチナ解放機構（ＰＬＯ）ができます。これはパレスチナのアラブ人も代表する準国家としてアラブ諸国などからも認知されています。また国連にもオブザーバーの資格で参加しています。その目標はイスラエルを追い出すことですが、非宗教国家にしてユダヤ人との共存も掲げています。アラファトがずっと議長を勤めていましたが昨年亡くなりました。
1967年に第三次中東戦争が起こりました。エジプトのアカバ湾封鎖に対してイスラエルが奇襲攻撃を加えたのです。これは６日間でイスラエルの電撃的な勝利に終わりました。その結果イスラエルの領土は５倍になり、パレスチナ難民は新たに約百万人増加しました。
1973年に第四次中東戦争が起こりました。第三次中東戦争の失地回復のためにアラブ側が結束してイスラエルに挑戦したのです。イスラエルを支援する西側先進諸国に打撃を与えるためにアラブ石油輸出国機構が原油価格を四倍以上に引き上げるなどいわゆる「オイルショック」も伴いました。第四次中東戦争もアラブ側の敗北に終わったのですが、その理由はアメリカ製の戦闘機とソ連製の戦闘機の性能の差にあったということです。
以後アラブ諸国全体とイスラエルとの戦争は起こっていませんが、中東地域の紛争はイスラエルや欧米諸国にいかに対抗するのかという問題が根底にあると考えてください。第四次中東戦争の敗北でエジプトはアラブの盟主の地位を降ります。1978年にはアメリカのキャンプデービッドで合意し、翌年エジプト・イスラエル平和条約が締結され、シナイ半島はエジプトに返還されたのです。
1991年にイスラエルとＰＬＯは本格的な交渉をマドリッドで行いました。中東和平会談です。1993年に「パレスチナ暫定自治協定」調印にこぎつけました。これはイスラエルとＰＬＯが相互に承認しあうものです。そしてパレスチナの暫定自治を認め、最終地位交渉を開始するというものです。ようするにパレスチナの一部にパレスチナに住むアラブ人の国家をつくるというものです。そのためにヨルダン川西岸地区とガザ地区をあてます。
しかしパレスチナのアラブ人はイスラエルとの武力闘争を続けようとするハマスなどの勢力が強く、1987年から「インティファーダ」と呼ばれる反イスラエル蜂起が過激化しました。1995年にはイスラエルのラビン首相が暗殺され、和平慎重派のリクード党が政権につき入植地を拡大して、パレスチナ過激派のテロ再開を招きました。テロに対してはイスラエルは軍事報復を繰り返しますからなかなか解決しないのです。
それでも2003年には「新中東和平案」いわゆる「ロードマップ」に双方が賛成しました。
軍縮交渉と軍拡
核兵器を使った戦争、つまり核戦争を想定しますと、先制攻撃が非常に重要です。スパイ衛星で敵国のミサイル基地を調べ上げてそこを一気に核攻撃を加えますと、かなり有利に展開しますね。アメリカ合衆国の核戦略は従って先制攻撃です。それに対してソ連は、先制攻撃はしないと公言し、その代わりやられたら徹底的にやり返すという作戦でした。そのためにはソ連としては西側諸国の二倍以上の核兵器を保有しなければならないということになり、大量の核ミサイルと核爆弾を保有したのです。そのためにソ連経済は重い軍事費の負担に耐えられなくなり、経済の長期停滞が生じてしまったのです。
1969年から米ソ間で戦略兵器制限交渉(SALT)が始まりました。でもSALTの対象外の核兵器の開発が行われるので核軍拡はどんどん進みます。それで1982年から中距離核戦力(INF)削減交渉、翌年から全般的な戦略兵器削減交渉(START)を開始したのです。つまりソ連は経済的な事情から核軍拡競争を続けることはできなくなったのです。
冷戦の終焉とソ連・東欧の社会主義体制の崩壊
1985年、ソ連ではペレストロイカ(改革)を掲げたゴルバチョフ政権の誕生で、情勢は一変します。彼はペレストロイカを行うためには、共産党にとって都合悪い情報も含めて、グラスノスチ(情報公開)を行って自由に議論し、抜本的に社会主義政治経済体制の立て直しを図ろうとしました。そして西側諸国とは、1970年以来停滞していたソ連経済を立て直すための資本と技術の投資や援助を求めることにしたのです。フルシチョフ時代にアメリカに追いつき追い越すと言っていたのに、ブレジネフ書記長時代に官僚主義、軍国主義、特権階級（ノーメンクラツーラ）による支配などでソ連経済は全く破綻してしまっていたのです。特にモラルハザードと言われる士気崩壊は甚だしく、仕事中から飲んだくれる人々が多くなっていたようです。
ゴルバチョフは歴史的な東西和解を進めるにあたって「全人類的価値の優先」というスローガンを打ち出しました。イデオロギー対立や階級対立、民族対立などがあっても、地球環境を守ったり、資源を保全したり、科学技術を発展させるなど、人類の共通の課題に協力し合って取り組む事のほうが大切だというのです。こういう新しい発想を「新思考」と呼び、それに基づく外交を「新思考外交」と名づけました。つまり東西冷戦を終結し、大胆な軍縮を実施し、東欧諸国などへの介入を行わないとしたのです。
ということは「ワルシャワ条約機構」の下での制限主権論は取り下げるということですから、東欧諸国はソ連の支配を離れて自主的な国づくりができるようになったわけです。その結果、東欧諸国では改革派が勢力を拡大して、1989年には連鎖的に東欧で共産党政権が崩壊する民主革命が起こりました。そして同年米ソはマルタ会談で冷戦の終結を正式に宣言したのです。ついにヤルタ体制は崩壊したわけです。
ペレストロイカは抜本的な建て直しのために歴史の見直しをともないましたので、第二次世界大戦中に無理やりソ連邦に統合されたバルト三国が、1990年にソ連邦からの離脱独立を宣言しました。そしてドイツではついに「ベルリンの壁」が壊され東ドイツは消滅しました。社会主義建設という目標で統合されていたユーゴスラビアやソ連邦、チェコ・スロバキアなどはそれぞれ連邦の解体へと進みました。ユーゴスラビアは深刻な内戦が続くことになります。
1991年にソ連邦は共和国の独立性を強める憲法改正に対してソ連邦共産党がクーデターを起こそうとしたということで、ソ連邦共産党が解散させられ、ソ連邦も解体して独立国家共同体（CIS）が発足しました。こうしてソ連邦は69年の歴史を閉じたのです。
冷戦終焉と軍縮
戦略兵器削減交渉(START)でもめたのが、戦略防衛構想(SDI)の取り扱いでした。ソ連から飛んでくるミサイルを軍事衛星と地上からレーザー兵器で防ごうという構想です。防衛構想だから軍縮の対象にならないというのが米側の言い分で、ソ連は一括して軍縮の対象にしなければまとまらないと主張しました。でも「新思考外交」では、その問題は棚上げにして1997年に中距離核戦力(INF)全廃条約締結にこぎつけたのです。これはヨーロッパや極東の緊張緩和には大きな意味がある画期的な合意でした。
ゴルバチョフ時代はもう東西冷戦は終わりだから、STARTでも戦略兵器は全廃しようという基本合意のもとで、その方向性で話し合っていたのです。でも実際に核兵器を廃棄する段になると核弾道をミサイルから取り外したり、核兵器を解体するにも大変な費用と技術が必要で、長期にわたって停滞してきたソ連には自力でそれをする力がなくなっていましたが、欧米の援助も限界があり、INFの弾道弾の取り外しさえあまり進んでいないのが現状です。その後も大幅削減に合意しているものの実際には核軍縮はあまり進捗していないのです。ロシア政府になってからもその事情は変わりません。特にプーチン政権になってからは、ロシアは再び軍事大国の地位に未練があるようにすら見えてきています。
イラン革命とイラン・イラク戦争
サダム・フセインイラク大統領 ホメイニ師 湾岸戦争
1978年にイラン王国ではパーレビ王朝が崩壊しました。 パーレビ王朝は親欧米の近代化政策をとり、貧富の格差が拡大していました。これに対してイスラム原理主義の立場からの反発が強くなり、1978年に反王室、反米の運動が強くなり、1979年に国王は亡命し、イスラムシーア派の最高指導者ホメイニ師が帰国して、イスラム原理主義の革命が起こりました。
イスラム原理主義は「クルアーン」などのイスラム聖典にもとづく支配を実現しようとするものです。イスラム法のことをシャリーアといい、シャリーアによる支配を宣言したのです。このシーア派による革命は、隣国イラクにとっても脅威でした。イラクはスンニ派のフセイン大統領が支配していましたが、人口の過半数はシーア派だったので、イラン革命がイラクにも波及してくれば、フセイン政権も危なくなるからです。1980年9月にイラクはイランを奇襲してイラン・イラク戦争が始まりました。これに対してイラン革命の波及を恐れたアラブ諸国のほとんどがイラクを支援しました。またイラン革命で直接イランでの石油利権をうしなったアメリカや、イスラム勢力の国内での拡大を恐れたソ連もイラクを支援したのです。
アラブ諸国でイランに同情的だったのは、リビア、シリア、南イエメン、アルジェリアです。イスラエルはイランに武器を供給しました。反米やイラクへの反発からです。当初こそイラクはアラブ諸国やアメリカ、ソ連などの援助で優勢でしたが、イランは粘り強く戦いやがて巻き返して、イラク領内に攻め込むようになり、イラクは毒ガスを使って反撃したといわれています。戦争は長引き1988年まで続いたのです。結局国連決議などで停戦を受け入れるように要請されて勝者なき休戦になりました。その間にイラクは各国からの支援で軍事大国になっていたわけです。
イラクのクウェート侵攻、湾岸戦争
1990年8月にイラクはクウェートに侵攻しましたが、その理由はクウェートがイラクに戦時債務の返済を要求下からだといわれています。イラン・イラク戦争は、勝者なき休戦となったために、イラクは戦時中に調達した戦費を返済できる余裕はまったくなかったのです。それより戦災の被害も深刻で、原油価格も低落しており、経済的に追い詰められていたのです。クウェートにすれば貸した金を返せというだけの当たり前の要求なのですが、イラクにすればイラン革命の波及を防ぐためにクウェートなどアラブ諸国のためにも戦っていたわけですから、まったくもって不当な要求だということです。それでクウェートは元々イラクの領土だといって侵攻してしまったのです。イラクは戦争のおかげで軍事力だけは肥大化していましたから、すぐにクウェートを占領しました。
このクウェート侵攻はアラブ連盟の内部での侵攻ですから、明らかに地域的な集団安全保障体制に挑戦するものです。そこでアラブ諸国はアラブ合同軍を結成して、イラクと戦わざるを得なくなったのです。国連はたびたびイラクに撤退を勧告しましたが、イラクは拒否しましたので、ついに11月に「対イラク武力行使容認決議」が可決されました。国連軍が編成できなかったので、アメリカを中心にする多国籍軍が編成され、1991年1月17日に「砂漠の嵐」作戦が開始されました。
イラクはスカッドミサイルをイスラエルに撃ち込むなどの反撃も試みましたが、イスラエルは動きませんでした。イスラエルが参戦すればアラブ対イスラエルの対決となりますから、かえってフセインの思う壺だったわけです。結局3月3日にはイラクは暫定休戦協定を受け入れます。イラクの敗北に終わったもののフセイン政権は巧妙に存続したのです。4月3日の停戦協定ではクウェートへの賠償、大量破壊兵器の廃棄などが規定されましたが、これが後の火種ともなりました。
ソ連のアフガニスタン侵攻
1979年12月にソ連軍はアフガニスタンの内紛に介入するために侵攻しました。カルマルを首班とする傀儡政権を樹立させたのです。イスラム原理主義政権ができると、イラン革命とともにソ連国内にも影響が及ぶことを恐れたためです。ソ連軍は10万人も動員され、傀儡政権軍も10万人をこえたようですが、これに対して反政府勢力はムジャヒディーンを名乗り国内13万人、国外からの支援部隊11万人はのぼります。一説には国外からの義勇兵は20万人以上といわれます。西側諸国はムジャヒディーンを支援したわけです。その中にサウジアラビアから参加したのがオサマ・ビン・ラディンです。アメリカのCIAは20億ドルを費やしたといわれます。ですから国際テロ組織をアメリカが育てていたとも言えますね。
ソ連は1985年にゴルバチョフ政権ができましたので、1988～9年に撤退しました。ソ連撤退後も内戦が続き、政府軍は1992年まで持ちましたが、その後はムジャヒディーン各派の内戦が続きました。その中から台頭してきたのが、イスラム神学校の出身者からなるタリバーンの勢力で、彼らはビン・ラディンらのアルカイダと親密だったわけです。
グローバル化と文明間闘争の時代へ
冷戦終焉によって、戦争と革命の20世紀は終焉し、軍縮交渉も進んで、平和な時代が訪れると期待されました。実際にアメリカとロシアの間で大規模な戦略兵器の削減交渉が進展したわけです。しかしロシアの経済的停滞は深刻で、核ミサイルの解体や、核爆弾の取り外しなども西側諸国の協力がなければ進まない状態に陥っていたのです。実際には核削減はあまり進まなくなってしまいました。そうこうしている間に新たな平和の脅威が現実化し、ロシアも核大国としての立場に固執するようになるのです。
この脅威は民族的宗教的対立を背景にした国際的なテロとそれに対する報復戦争です。ソ連邦の解体やユーゴスラビア連邦の解体は、社会主義建設という共通の目標がなくなってしまったので、自分たちのアイデンティティを民族や宗教に求めるようになったからです。特にユーゴスラビアでは、自主管理社会主義という独特の市場経済に基づく社会主義を築いてきていたのですが、それが行き詰まってしまいますと、今までは全く差別や偏見なしに仲良く暮らしていた、人々が、憎しみ会うようになり、泥沼の戦争になり、虐殺も行われたのです。
サウジアラビアの財閥の家族に属していたビン・ラディンがアルカイダを組織して国際テロを行うようになったのは1990年代からです。この組織はアフガニスタンのムジャヒディーンに参加していた人々の中から生まれたわけですが、実際どういう組織なのかその実態は良く分かりません。しかし大規模なテロを実行していますから、相当の準備と資金と規律が必要であることは確かでしょう。
何故アフガニスタンでの対ソ戦争では後ろ盾になってくれたアメリカを最大のテロの標的にするようになったのでしょう。それは湾岸戦争が大きなきっかけになったといわれています。サウジアラビアが対イラク戦争にアメリカに基地を提供したわけです。サウジアラビアはイスラム教の聖地メッカなどがある国ですから、そこにキリスト教国のアメリカの軍事基地を置くというのは許しがたいことなのですね。
イラクのフセイン政権はイランとの戦争で米ソ両方が支援を受け、アラブ諸国にも支えられて軍事大国化を図ったわけです。その結果、イスラエルに対抗できるアラブの強国が出現しようとしていたわけですね。これを叩くためにアメリカはイスラムの中心国サウジアラビアに軍事基地を置いたわけです。これを認めたサウジアラビア王国も打倒しなければならないけれど、やはりアメリカが中東に口出しをし、支配しようとするのをしりぞけなければならないというのが、彼らの立場です。
イスラエルは欧米帝国主義が中東のイスラムの中心に打ち込んだ楔です。イスラエルによって中東をかき回し、弱体化して資源や経済を支配しようという考えだとにらんでいるのでしょう。アメリカがイスラエルを支えなければ、アラブ諸国は一つにまとまり、イスラム文化は開花して欧米キリスト教文明にけっして引けをとらない素晴らしい文明を築けるはずだと思っているのです。
アルカイダのテロは1993年にはニューヨークの世界貿易センタービル爆破事件、同年からの在サウジアラビア米軍基地爆破事件、ケニア・タンザニアのアメリカ大使館爆破事件、イエメン沖の米艦コール襲撃事件に関与したと言われ、ついには2001年の9/11テロ（アメリカ同時多発テロ事件）を引き起こしたといわれます。このようなテロは国を問わず、ボーダレスに展開されています。トルコやスペインやイタリアやイギリスなどに対しても自爆テロが行われ、東京の都心で起こっても不思議はありません。その与える衝撃と損害は甚大です。
国際テロを惹き起こす組織はそれほど巨大なものではありません。それでも自爆テロならアメリカの中枢を襲うことすらできるのです。これは20世紀までの戦争では考えられないことでした。もし毒ガスや小型核兵器を彼らが入手して使ったら、どんなことになるのか大変恐ろしいですね。それにインターネットの通信網をサイバーテロなどで混乱させるなどが行われますと、さらに大パニックになるでしょう。
このようなテロ組織を撲滅、解体しなければならないのですが、そのためにアメリカはアフガニスタンに侵攻してタリバン政権を打倒し、イラクのフセイン政権を打倒しました。つまりテロに対しては報復戦争という形で対処しているわけです。でもそれでアルカイダは弱体化し、テロの可能性は減少したでしょうか。たとえアルカイダは滅ぼせても、また別のテロ組織が暗躍したら同じことです。
資本主義対共産主義というイデオロギー対立の時代が終わったので、世界には根本的な対立がなくなり、歴史の発展もなくだるだろうという予測をフランシス・フクヤマが『歴史の終わり』という本に書いて話題になったことがあったのですが、それに対してアメリカ政治学者でハンチントンという人が『文明の衝突』という衝撃的な内容の本を出したのです。冷戦が終焉してグローバル化が進めば進むほど、異質な文明間のずれが意識され、民族や宗教にアイデンティティを見出して、そこで異なる文化圏の衝突が問題になるだろうというのです。それが実際に2001年9月11日にアメリカで同時多発テロが起こって、ハンチントンの不吉な予言が現実のものになってきているわけですね。
『文明の衝突』でもっとも恐れられているのが、イスラム文明と儒教文明が手を結んで欧米のキリスト教文明と衝突する事態です。それでハンチントンを日本は独自の文明だから、儒教文明に取り込まれないように、日米同盟をしっかりしておく必要があるという指摘をしています。もちろんそうした対決にならないようにしようということですが、でもそういうことになったら日本をしっかり味方につけておこうという考え方でもあるわけです。
テロに対して報復戦争という形でやっていきますと、憎しみが増幅して、ますます大規模なテロと報復戦争になり、実際に大量破壊兵器が使われるようにならないとも限りません。恐ろしいことは科学技術や生産力の発達によって、毒ガスや核兵器、生物兵器などの大量破壊兵器が小型化、低廉化して国際テロ組織やカルト集団が全人類に対してハルマゲドン(世界最終戦争)を仕掛けるようにもなりかねないということです。そうしますといかに超大国が大量に核ミサイルを独占していてもやられてしまうことになります。力による解決だけ追求していては駄目なのです。
それに対決中心にやっていますと全人類的な課題を解決できません。核軍縮も行き詰まったままですし、環境問題でもしっかりした協力体制はとれていません。9・11以降は確かに人類的危機は深まったと思われます。
ではどうすればいいのでしょうか、やはり共存共栄できるようにするしかありませんね。中東問題では、イスラエルをどうするかという原点に返って解決しなければなりません。ユダヤ教とイスラム教の対決図式のまま事態を丸く収めることは、火種を残すことになるわけですから、抜本的な解決を国際社会が国連中心に打ち出す必要があります。それには私案ですが、イェルサレムに国連本部を置き、パレスチナを国連の統治下におくのです。そのうえで、ユダヤ人とパレスチナ・アラブ人が共存できる社会をつくればいいわけです。もちろん両者に軍事組織は認めてはいけません。安保理事会の下に中立的な国々からの混成軍が治安維持をするというような形ですね。その上で中東地域全体の経済発展計画を策定して、世界の資本を重点的に投入するわけです。ユダヤ資本にも大いに貢献してもらうわけですね。そうすれば中東全体に大きな利益をもたらすことができます。
もちろん宗教的和解も必要ですが、これも不可能だと決め付けては駄目です。同じ神を崇拝しているのですから、絶対的な別の宗教ではないので、イスラム神殿「岩のドーム」を包み込んだ ユダヤ神殿「イェルサレム神殿」を再建させて、宗教的和解の象徴にすることがベストです。
イスラム 「岩のドーム」 ユダヤ教 「嘆きの壁」 キリスト教 「聖墳墓教会」
近代国際社会の原理
ボーダン グロティウス『戦争と平和の法』
ボーダン『国家論六篇』
国家には最高至上の力ありそをボーダンは主権と名づけり
イェリネックの国家の三要素を思い出してください。国家には統治する領域があり、そこに統治される人民がいて、その上に統治する主権が存在しているということですね。つまり近代の国家は主権を持つ国家として定義されているのです。
では主権sovereigntyとはなんでしょう。主権は一定の領域を排他的に統治する権力なので、主権国家といえば、独立国家を意味します。これが対外的な主権の意味ですね。対内的には、国家が国家内において最高の権力を持つことを意味します。
国家が国家内で最高権力を持つというのはおかしな表現だと思いませんか。国家の中でだれが最高権力を持っているのかが重要なのにと。一見おかしな表現ですが、国家を生きた全体として、主体的意志をもつものとして捉える発想がホッブズにも、イエリネックにもあるのでしたね。イェリネックによると主権者は国家自体でした。
主権概念を確立したのはフランスのジャン・ボーダンです。1576年に『国家論六篇』で展開したのです。つまり国家は宗教や封建領主の道具ではなく、それ自体のために存在するわけです。これは国家権力を強化することによって、強大な専制権力を手に入れ、海外植民地との交易を盛んにしてのし上がろうとしていた、君主権力と大商人たちにとって都合のいい考え方ですね。
グロティウス『戦争と平和の法』
戦には戦の掟ありたるに都市丸ごとに焼き尽くすとは
主権国家は国内的には最高権力として君臨して、法を制定して平和を保つのですが、対外的にはどうでしょう。主権国家どうしの利害を調整し、国際平和を保つための国際的な法がきちんと整っていなかったのです。そうしますと結局ホッブズのいうところの自然状態のようなもので、主権国家どうしは戦争状態に陥ってしまいがちです。しかも戦争を規制する決まりもはっきりしていないので、弱肉強食の力の論理が支配することになります。
とはいえ、国家も何の道理もなく、戦争ばかりしていたわけではありません。主権が侵害されたり、人民の安全や財産が他国に脅かされたり、国家の存続発展のためには獲得しなければならない利権という認識の下に戦争するわけですね。そして戦争においてもむやみやたらに民間人を殺傷したり、民間人の財産にまで奪略したりはしないようにしました。そうでないと、恨みをかって、今度やられるときにはどんなひどい目に遭わされるかもしれません。
そこでグロティウスは、そういう慣習的に守られてきた戦争や平和についての文章化されていない決まりを国際自然法と捉え、その文章化を図って、国際的な基準を明確にしようとしたのです。そうしておけば、それに則っていれば、腹も立ちませんし、また無茶なこともできなくなりますね。これが1625年の『戦争と平和の法』です。グロティウスは正当な戦争は防衛のための戦争、侵略によって奪われた国益の回復のための戦争、国際法に違反した国家を制裁するための戦争に限定したわけです。自らの国益増大のための侵略戦争は悪い、不法な戦争だということですね。
それから戦争の仕方などは、民間人の殺傷や財産の略奪などはいけないなどのいわゆる戦争犯罪を規定したわけです。これは20世紀の総力戦の時代になりますと全く無視されて、南京大虐殺、東京大空襲や原爆投下などが起こりました。グロティウスもあきれるでしょうね。
国際法には国際慣習法と条約類があります。国際慣習法は国際的な常識となった国家間の原則です。グロティウスの思想を発展させて、『平和五原則』などが確認されているわけです。再確認しておきましょう。
①領土保全と主権の相互尊重 ②相互不可侵 ③相互の内政不干渉 ④平等互恵 ⑤平和共存
条約類には一般の条約の他、国家間の合意文書が含まれます。規約、憲章、協定、議定書などです。
これらの国際法にもとづいて国際紛争を国際法廷で解決しようとする国際裁判所があります。
第二次世界大戦前には常設仲裁裁判所がありました。第二次世界大戦後は、国際連合の主要機関の一つとして国際司法裁判所があります。裁判官は国連総会と安保理で選ばれた15名が担当します。ただし当事国の双方が付託しないとできません。それでも96件が付託され、62の判決が下り、284の命令が出ています。竹島や北方領土などの解決に役立てばいいのですが。
この他、私人についても国際裁判ができるように1998年に国際刑事裁判所(ICC)規定がローマ外交会議で採択され、60か国が批准して2002年に発効しました。残念ながら日本はまだこの規定に署名していません。でもこの条約を批准する予定です。強硬にこの規定に反発しているのはアメリカ政府です。それは米軍の中に国際刑事裁判に訴追されそうな人がいるからでして、各国に米軍人を国際刑事裁判への訴追を免責するように圧力をかけているそうです。
ウェストファリア体制と近代国際社会の成立
信仰は心の中にしまいこみ、国の政治に十字架かざすな
ドイツ30年戦争の処理をめぐり始めての国際会議が開かれ、初の本格的な多国間条約とも言えるウェストファリア条約が1648年に締結されました。大雑把な内容は次の通りです。
スイスとオランダ（ネーデルランド連邦）の独立の承認
ドイツ諸侯が主権を持つことの確認（神聖ローマ帝国の形骸化）
プロテスタント（カルバン派含む）とカソリックの同権を認めた
後から考えますと、これで近代主権国家体制（ウェストファリア体制）が確立されたとも言われています。特に近代主権国家は、国家自体が支配の主体であり、宗教権力が政治に関わることを牽制した役割は大きいのです。従いまして、近代主権国家の時代が冷戦終焉後のグローバル化によって大きく動揺しますと、近代主権国家によって押さえ込まれていた宗教や文化の違いによる対立が再浮上することが懸念されているのです。
パワー・バランス（勢力均衡政策）
軍事力バランス崩らば大戦争それが怖くてなお大軍拡
主権国家は、国家自体が支配しているということですので、国家は存続と発展を目指して生き残り競争を展開します。つまり近代は、主権国家が存在することが前提ですので、国家隆盛や衰退次第で、国家を構成している各階層の人々の生活に響くわけです。特に国家を強盛にすることで、海外の植民地を獲得し、巨万の富を得ようとしていた人々は戦争などによる強大化を願っていました。
既に大航海時代からスペイン、ポルトガルの世界支配がはじまっており、これに対して
1588年にスペインの無敵艦隊を破ったイギリスが制海権をとって世界の海に進出し始めていました。これに続いたのがオランダ（ネーデルランド連邦）ですね。フランスもウェストファリア条約では欧州随一の大国としての存在感を示しています。
戦争したくなくても、何かと口実を設けては大国は小国を侵略しようとします。これに対抗するには軍備を増強したり、別の大国にすりよったり、同盟国を作ってパワー・バランスをとらなくてはならないのです。そうしますと強力な国を中心にいくつかのグループに分かれて、互いに軍拡競争にしのぎを削るようになります。こういう力で平和を維持しようとしますと、軍事費の負担に耐え切れなくなって、戦争せざるを得なくなるのです。
第一次世界大戦の前に三国協商と三国同盟の対立がありました。ドイツの台頭を恐れたフランスとイギリスはそれまでの犬猿の仲をあらためてロシアも含めて三国協商を結び、ドイツ・オーストリア・イタリアの三国同盟と対立したのです。
両勢力とも相手を圧倒する軍事力を持とうと頑張った結果、大変な兵力になってしまい、これで戦争したら大変だということになりました。でも自分から一方的に軍縮するとバランスが崩れて侵略されるのではと警戒しました。それで軍事費の負担に耐え切れなくなるまで軍備を増強したのです。
軍拡しすぎますと、重税国家になり、それで経済が疲弊しますから、国民の不満が募り、その不満がナショナリズムによって、ライバル国による圧迫のせいだという意識になりますと怖いですね。戦争を一般国民が要求するようになるのです。こうして戦争熱に浮かされた国民の要求によって第一次世界大戦は起こったといわれています。
第一次世界大戦にあくまで反対したのは社会主義者です。資本家階級どうしが植民地の市場や資源を取り合っているのであって、そのために何の恨みもない、労働者同士が兵隊にとられ、殺し合いをさせられるのは真っ平だという考え方でした。ところが、労働者階級の中にも愛国心に火がついて、労働組合や社会主義政党の反戦の方針が支持を得られなくなっていきます。こうして戦争へと突き進むことになったのです。
ともかく力のバランスによって平和を維持しようという考え方では、戦争を先延ばしし、巨大化させるだけだということです。いつまでもこの方法をとっていますと、武器が進化して大量破壊兵器が出現しますと、人類は滅亡してしまいますね。
実際第二次世界大戦中に毒ガス兵器・細菌兵器・核兵器などの大量破壊兵器が開発されました。幸い、毒ガス兵器や細菌兵器の本格使用は控えられました。ナチスは毒ガスを戦争では使うのをためらって、ユダヤ人の大量虐殺に使用しました。第二次世界大戦後は核兵器の時代になりました。核兵器の使用は人類絶滅だと分かっていましたから、使えなくて、際限ない軍拡競争となり、恐怖の均衡を持続しました。その結果ソ連経済が先に破綻して、冷戦終焉となったのです。しかし冷戦終焉に際して、しっかり恒久平和体制を確立し、軍備全廃を実現していなかったですから、また軍拡競争の悪循環が始まらないとも限りませんね。
集団安全保障の理念
戦争はやめると誓った国々の連合つくって永久の平和を
戦争は大量殺戮であり、大変恐ろしいことですが、それで国が栄えたりするものですから、戦争で人殺しを効率的にしますと、お手柄だといってほめられたり、勲章や褒美をもらえたりしますね。中国の戦国時代に活躍した墨家たちの元祖の墨子は「隣家の柿の実を盗んで食べても泥棒だといって、腕を切られるのに、隣国に攻め込んで、たくさん人を殺して領土を奪えば英雄としてほめられる」と「非攻」を唱えました。墨家については映画で『墨攻』というのが上映されますので是非観て下さい。
墨家は大国が小国を侵略するのが戦争の基本形なので、大国の侵略から小国を守る防衛の工夫をして小国のために命がけで戦いました。おかげて助かった国も多かったのです。でもそれでは天下が統一されないので、いつまでも平和にならないというジレンマが起こり、墨家の中に大国秦に味方しようとする裏切り者がでたのです。これが秦墨です。でも始皇帝の天下統一が実現すると秦墨はみんな殺されたそうです。
近代になってパワー・バランスでは戦争の悲劇はなくならないので、包括的な恒久平和を求める思想がでてきます。まずサン・ピエールの『ヨーロッパ恒久平和草案』(1713)を紹介しましょう。
サン・ピエールの国家連合(une
Confederation)構想
１）国家連合を構成する各々の主権者は、全権委員を任命し、その委員が連合議会をつくって仲裁・審判を行う。
２）全権委員の数、条約参加主権者、議長、分担金額等を定める。
３）個々の国家の現状を承認し、変更を求めない。
４）同盟採決を拒否したり、同盟国に攻撃をしかけてくる国は、公の敵として、他の同盟国が一致して対決する。
５）全権委員は、ヨーロッパ共和国国民に有益な規則を、暫定的に多数決で、最終的には3/4の賛成により制定できる。
この国家連合をつくって、相互の不可侵を約束し、それに違反した国は他の国が結束してやっつけるという考え方が「集団安全保障」の理念です。ただ国家は栄枯盛衰がありますから、現状を固定しようというサン・ピエールの構想には限界がありますね。
カント ウィルソン大統領
つぎにカントの1795年の『永久平和のために』です。
第一章
第一条項 将来の戦争の種をひそかに保留して締結された平和条約は、決して平和条約とみなされてはならない。
第二条項 独立しているいかなる国家（小国であろうと大国であろうと、この場合問題ではない）も、継承、交換、買収、または贈与によって、ほかの国家がこれを取得できるということはあってはならない。
第三条項 常備軍は、時とともに全廃されなければならない。
第四条項 国家の対外紛争にかんしては、いかなる国債も発行されてはならない。
第五条項 いかなる国家も、ほかの国家の体制や統治に、暴力をもって干渉してはならない。
第六条項 いかなる国家も、他国との戦争において、将来の平和時における相互間の信頼を不可能にしてしまうような行為をしてはならない。
第二章
第一確定条項 各国家における市民的体制は、共和的でなければならない。
第二確定条項 国際法は、自由な諸国家の連合制度に基礎を置くべきである。
第三確定条項 世界市民法は、普遍的な友好をもたらす諸条件に制限されなければならない。
これがカントにより提案された永久平和のための条件です。カントは国家も人格をもつ主体としてみなされるべきだと考えました。個人は互いの人格を尊重し、目的にしあうべきだというのがカントの倫理学の立場ですから、国家もそうだということです。互いに人格として自分のことだけ考えるのではなく、相手の国のことも考え、自国の利益や平和だけでなく相手の国の利益や平和を考えるなら、軍備を構えてにらみ合うなどということは全くいけないことなのです。常備軍を全廃し、国際連合をつくって、その下で国際秩序を保つ国際法を制定すべきだという考え方ですね。
このカントの考え方は、第一次世界大戦で毒ガスの開発、飛行機、戦車、潜水艦、機関銃の本格的な登場で、再び世界戦争になれば人類は滅亡すると痛感したので、クローズアップされました。アメリカ大統領ウィルソンはヴェルサイユ講和会議で国際連盟を作ることを提案したのです。集団安全保障体制を実現させたいという願いですね。でも各国は国家主権に固執しましたので、骨抜きになりました。そのうえアメリカ合衆国の上院はモンロー主義(孤立主義)にこだわって参加を承認しなかったので、ウィルソン大統領は大恥をかいたわけです。
それでも国際条約で戦争自体を非合法化しようということになりました。それが1928年のケロッグ・ブリアン条約(不戦条約)です。
第一條 締約國ハ國際紛爭解決ノ爲戰爭ニ訴フルコトヲ非トシ且其ノ相互關係ニ於テ國家ノ政策ノ手段トシテノ戰爭ヲ抛棄スルコトヲ其ノ各自ノ人民ノ名ニ於テ嚴肅ニ宣言ス
第二條 締約國ハ相互間ニ起ルコトアルヘキ一切ノ紛爭又ハ紛議ハ其ノ性質又ハ起因ノ如何ヲ問ハス平和的手段ニ依ルノ外之カ處理又ハ解決ヲ求メサルコトヲ約ス
これは国際紛争を武力で解決しないという戦争放棄の条約ですが、自衛権を否定していませんし、自衛のための戦力保持を禁止していないために、この条約締結後はすべて自衛のためにやむをえないという理由をつけて戦争をすることになったのです。そこでこの不戦条約が有名無実になったので、戦争放棄だけでなく、戦力不保持、国の交戦権否認まで付け加えて『日本国憲法』第九条が制定されたのです。つまり不戦条約を作った人々の戦争非合法化に共鳴して、GHQ内に非武装憲法制定の動きがあったようです。ただしそれは『国際連合憲章』に基づく国連軍構想の実現というのを予定していたと思われます。国連軍構想が挫折したので、マッカーサー元帥はあっさり豹変して、日本に再軍備を求めることにしたのです。