ほふられた子羊・オウム真理教と「ヨハネ黙示録」

 

                              やすい ゆたか

 

          一、オウム真理教事件

 

 一九九五年一月十七日、地震とは縁が無い筈の阪神地域で大地震が起こりました。紫色の閃光が走り、地底から衝き上げられる縦揺れの衝撃で、ビルや高速道路や家屋が瞬時にして崩壊し、日本の安全神話は吹っ飛びました。つい最近、ロスアンゼルス地震の惨状を見て、日本の建造物の耐震性は別格としていただけに、天狗の鼻をへし折られた恰好になりました。

  既に九〇年代不況が長引き、技術面でも経営面でもアメリカに遅れが目立ち始めていただけに、日本人の自信喪失は深刻でした。それに消火活動が全くできず、大災害への対応が全く整っていなかったのがショックです。いざというときに国家が頼りになら ないと分かって、国家共同体意識の強かった日本人は根底的な反省を迫られたのです。

 その二カ月後、東京都心部で地下鉄サリン事件が発生しました。未曾有の凶悪な無差別毒ガステロ事件でした。この事件は世界一治安の良好な国としての日本のイメージを根底から覆したのです。この衝撃は「魂の縦揺れ」というべきものでした。事件は目黒公証人役場の刈谷さん拉致事件の捜査を攪乱するために行われたらしいと、端からオウム真理教が疑われました。というのは、既に上九一色村のオウムサティアン付近でサリンガス散布の痕跡が発見されており、製造疑惑が持たれていた上の出来事だったからです。

 その後捜査が進展するに伴い、驚愕的な真相らしきものが見えてきました。サリン製造・散布は、オウム真理教が社会不安を引き起こし、国家への信頼を喪失させ、国家権力の転覆を企んだものだったらしいのです。しかもそれに止まりません。彼らの宗教的な狙いは、「人類救済計画」という美名の下にハルマゲドンを現実化するという、究極の地獄絵の実現にあったのです。彼らはオウム真理教施設が米軍からの毒ガス攻撃に晒されているという虚偽のプロパガンダを行ってきました。裏で化学班に毒ガスを製造させ、意図的あるいは事故でガス漏れを起こして、被害妄想に信徒を陥れ、対抗的に毒ガスの製造・保有 を正当化しようとしていたのです。

 教祖麻原彰光は、満州事変のシナリオを書いた石原莞爾の『世界最終戦争論』と同様、 ハルマゲドンが日米間の戦争によって到来すると予言していました。麻原は、自らの行った予言は、それを現実化させることで真実であったことを証ししようとしたのです。毒ガステロを日米双方で引き起こして、それを相手のせいだと宣伝して敵意を持たせ、開戦に持ち込む作戦だったという推測も行われています。

 ともかく大規模に毒ガスを散布するなりして、人類を恐怖に陥れ、その大部分を殺戮した後で、オウム真理教施設に逃げ込んで、毒ガスから防御された人々だけが生き残るという計算です。その上で生き残った人々の上にオウム真理法王国を建国し、世界の統合を実現するという野望だったのです。それにしても麻原はどうしてこんな身の毛もよだつことを構想できたのでしょう。

 

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