無への風

                            船曵 秀隆

 

音を気にしている少年と

誰もいない喫茶店へ

赤い爆弾を捜しに行く

軋む空き缶の音に魅せられて

壊れた椅子に座る 

音が消える  時が消える

僕らは真っ逆さまに椅子から落ちていく

悪魔の声を聞きながら 

天使の耳栓をしながら

太陽すら無い真っ暗に輝いた

空へ

落ちてゆく 

回転する地球に

回転する歴史の

回転する国の

中枢にて 最後のしゃぼん玉に火を点ける

「赤い爆弾だ!」無人は叫ぶ 

誰もいない国

何もしない光

空白の出口へと

僕らは 無への風に火を点けた  

シャボン玉が割れ

信じられない生命の雨が降り始める

きかせてやろう その日の僕の赤い吐息を

船曳秀隆への感想

 

「無への風」は「初出:『13Fから』2000.1.朝日カルチャーセンター」

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