信濃毎日新聞6月26日(日) 琉球新報6月19日(日)

『評伝 梅原猛―哀しみのパトス』やすいゆたか著 

 梅原猛氏は、何かとマスコミに取り上げられることが多い。これまでの業績も人となりも、ユニークだからだ。戦後のW知識人Wたちが欧米の思想や文化、流行に傾倒しがちだったのに、梅原氏はむしろ、日本古来の思想や歴史の中に踏み込んでいった。

 聖徳太子や最澄、空海、法然、親鷺… 。こうした人々 を再評価するだけでなく、「地獄の思想」「怨霊史観」「アイヌ縄文人説]などの独特の視点を打ち出していく。そんな梅原氏の最初の評伝が本書。

 著者は、梅原氏が著作の中で歴史上の人物の心理分析をする時のように、しばしば「自分が梅原氏だったらどう感じるか」と感情移入し、その人物像や思想の根底にあるものを浮かび上がらせようとしている。

 著者は、梅原氏の生母へのある思いが、その後の人生や業績を貫いているという。そのことを本人へ、直接問いただしてもいる。梅原氏は巻末の一文で、そんな著者を「梅原猛の霊」が乗り移ったとしか思えない」と評している。

 すべてが梅原力ラーな一冊。
 

(ミネルヴア書房2940円)

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