E地球環境問題

  花子ーこれから私たちの生活のあり方を考える場合,環境問題抜きには語れないところにきていまね。ゴミを分けて出すとか,部屋の明かりをこまめに消すとか,マイカーを自粛するとか,そういうことが地球環境の保全に直結しているんでしょう。

太郎ーこれまで資源の節約の問題として捉えられていたことでも,地球温暖化の問題やダイオキシンの汚染問題と結びついていることが報じられていますね。地球環境の危機はとても喧しく強調されているんですが,実際のところはどうなんでしょう,本当に人類の存続(サバイバル)に係わるような危機に直面しているのですか,それとも大袈裟に騒ぎ立てているだけなのですか,もし人類の存続が切迫した危機にあるのなら,もっと深刻に受け止め,国際的にも強力で強制的な規制が決定され実行される筈ですね。

先生ー地球環境問題は,あくまでも予測の問題であって確実な予測ができるようなものでないだけに,問題は複雑だ。たとえばオゾン層が破壊されると紫外線が直接地上に降り注ぎ、地上生物は死滅するというのはその通りなんだ。そしてフロンガス等がオゾン層を破壊する事も確からしい。ただそれが今までに排出されたフロンガスだけでも,やがてオゾン層が破壊されてしまうのか,これから排出されるフロンガスによって決定的なカタストロフィ(大崩壊)が起こるのか,実験で確かめるわけにもいかないだろう。ただ科学者は数十年の内にカタストロフィに達するというように,かなりペシミスティック(悲観的)な見方をしているようだな。

花子ー事故が起こってからじゃあ遅いんでしょう。火星みたいに死の星になってしまう。今から相当厳しい規制をすべきですよね。

太郎ー確かにそれは望ましいんだけれど,昨年暮れの「地球温暖化防止京都会議」でも,先進諸国と途上諸国ではかなり深刻な対立があったんだ。これまで産業革命以来,近代工業の発達がエネルギー消費量を激増させてきた。二酸化炭素をはじめ温室効果ガスをこれまで大量に排出してきたのは先進諸国なんだ。発展途上諸国はこれから工業化していく途中だろう。先進諸国は途上諸国にも排出量の削減を求めているんだが,途上諸国は一人当たりの排出量は先進諸国の数分の一でしかないから先進諸国が削減すればよいという態度を取りつづけているんだ。

花子ー途上諸国の言い分もおかしいわ。だって先進諸国に見習って温室効果ガスを排出するんだったら,お前たちが悪いことをしてきたんだから,自分たちにもやらせろと言ってることになるんじゃない。

先生ー途上諸国の工業化を押さえつけるというわけにはいかないだろう。せっかく工業化によってやっと豊かになれるというところなのに,すでに豊かな暮らしをしている先進諸国の人が,地球環境の保全の為に君達は貧しいままでいなさいというのは,途上諸国の人々から言えばあまりに身勝手な言い分だ。それだったら先進諸国の工業生産を落として途上国なみの排出量にしてから,途上諸国にも厳しい規制を要求すべきだということだな。

  太郎ーそれは途上諸国にとって破滅的な事態になりますよ。だって先進諸国の需要に支えられて,途上諸国の生産は成り立っているのですから。先進諸国がいきなり生産を激減させたら,途上諸国はまた未開の生活に逆戻りしなければならなくなります。まだ未開のジャングルなどが残っていて,未開の文化を継承できるならいいかもしれないけれど,すでに熱帯雨林は相当破壊され,文明化されて生活様式や意識が変わってしまっています。だから,とても生きていけません。

花子ーだから互いに自分の立場を主張するのはいいけれど,地球環境が壊れちゃったら人類全体が破滅するってことをしっかり見据えて,互いに犠牲を分かち合って取組むべきじゃないですか。

先生ー確かにそれは正論だが,その正論が通るには地球環境危機についての正しい認識が共有されていなければならない。しっかりした国際的な権威のある機関で研究して,地球環境危機の実相やその対策などを打ち出しておく必要がある。

太郎ーその為に京都会議などが開催されているんでしょう。でもそこでは各国の利害調整の場になっていて,科学的な認識の場に成っているようには思えませんね。 

花子ーもし本当に人類の存亡にかかわる事態なんだったら,もっと本気でやってほしいですね。途上諸国の水準にまで生産を落としてもいいじゃないですか,食糧さえ確保できれば。

先生ー環境問題では国民国家単位のばらばらの対応ではとても駄目で,グローバルな機関の強力なイニシアティブ(主導権)によって人類が一丸になって取り組まなければカタストロフィを回避することはできないと思われる。その為にもきちんとした科学的データによるシュミレーションが提示される必要があるね。 

             熱帯雨林の破壊

  太郎ー途上諸国の熱帯雨林が伐採されて1980年代には毎年日本の面積の約4割が減少していますが,その主な原因はなんですか。

花子ーそりゃあ先進諸国がパルプの原料と建築資材を買いつけているので,熱帯雨林の伐採が進んでいるのよ。日本なんか森林が豊富なんだけれど,伐採しちゃうと洪水になったり,気候が砂漠化したりするというので,厳しく規制されているから,東南アジアからどんどん輸入しているでしょう。だから私たちが紙の使用を節約することが大切なのよ。

太郎ー熱帯雨林減少の最大の原因は焼き畑農業にあると聞いたことがありますが。

先生ーパプアニューギニアなど東南アジアの島国では,確かに熱帯雨林減少の最大の原因は商業用の伐採だ。その最大の輸入国は日本だから,我々の責任は重大だな。

 紙の分別収集や再生紙の使用,紙の節約が強く求められるところだ。記録はフロッピーにして印字をなるべく減らすようにする必要もあるね。思い切って書籍もフロッピーやディスクの形で販売するようにすれば資源の節約になるだろう。それはともかく世界的に見れば,太郎君のいうとおり焼き畑による伐採が最大で減少面積の45% を占めるようだ。それから定住農業のための開墾, 薪の採取, 過剰な放牧などが挙げられる。

花子ー焼き畑などの未開的な農業は太古の昔からやっていたのに, どうして今頃になって熱帯雨林減少の最大の理由になるんですか。

太郎ーそれは人口爆発が原因なんだ。人口が増加すると必要な食糧を確保する為に焼き畑を増やすことになる。その他の理由も人口の増加と関連があるんでしょう。人口が増えると食糧を増やすために開墾したり,家畜を増やしたり,放牧する牛の数が増える。そうすると灌木の根まで食べてしまって,森林の再生ができないどころか砂漠化してしまうということですね。

先生ー産児制限を奨励し,焼き畑をやめさせて定住農業に切り換えさせたり,放牧を規制するには,農業技術指導を大規模に行う必要があるね。その前提として教育の普及が大切だ。それにグローバルな視点で熱帯雨林の地球環境全体での役割を,全人類が認識して,その保全と再生を支援すべきだな。

花子ー熱帯雨林がなくなると,そこに生活していた先住民が暮らしていけなくなるでしよう。アマゾン川流域ではセルバ(熱帯雨林)を失った未開の先住民の若者が希望を無くしてたくさん自殺するんだけれど,首吊りができる高い木がなくて灌木で無理に自殺するという悲惨な話を聞いたことがあります。

太郎ーやはり南米で未開の先住民がいると伐採が規制されるので,業者が殺し屋を雇って,先住民の部落を大量虐殺して,大規模な伐採を進めたりするということも聞いたことがあります。なにしろ交通規制をしている警官が強盗に早変わりするような治安状態ですから,なかなか熱帯雨林の保全なんて難しいでしょうね。

先生ー熱帯雨林は森林資源としての重要性だけでなく,気候の安定や二酸化炭素の吸収にも大きな役割を果たしている。大気の浄化をしているわけだ。砂漠化や地球温暖化を防止する意味からも熱帯雨林を守る為にグローバルな取り組みが必要だな。国際熱帯木材協定(ITTA)があり,その運用のために国際熱帯木材機関(ITTO)があるが,熱帯林の保全と持続可能な利用の為に強力なイニシアティブが求められるね。 

                 砂漠化         

  花子ー熱帯 雨林の減少と砂漠化は表裏一体だと思いますが,陸地の四分の一で砂漠化が進行し,約九億人が影響を受けているようですね。打つ手はあるんですか。

先生ー1974年に「国連砂漠化防止会議」が開かれ, 砂漠化防止行動計画が採択されているんだがなかなか進んでいない。1996年には砂漠化防止条約が発効したんだが, わが国は参加していないんだ。

太郎ー砂漠化というのは古代では, 文明の発達につきもので, しまいに文明は砂漠に飲み込まれて滅んでしまいました。メソポタミア文明やインダス文明が滅亡した原因は森林を伐採して, 煉瓦を焼いたり農地を拡大したのが原因だったと, 世界史で習いました。

花子ーゴビ砂漠が出来たのも万里の長城を造ったためだということらしいですね。

先生ーギリシアも元々は豊かな森林だったけれど, ギリシア文明の絶頂期にはほとんど森林はなくなっていたようだね。『旧約聖書』ではイスラエルは元々豊かな森と肥沃な耕地と草原で乳と蜜のしたたる地と呼ばれていたんだが,イエスの登場したころは既に荒れ野が広がっていたようだ。

太郎ー近代の工業文明も相当森林破壊をやって砂漠を拡大したようですね。でも現在問題になっている砂漠化はサハラ砂漠の拡大が中心で, これは主に大陸の移動が原因だとテレビで見たことがあります。

先生ー確かにサハラ砂漠の拡大は不可抗力の面があるようだね。サハラ砂漠も昔は肥沃な森林だったけれどアフリカ大陸が北上を続けているので,乾燥してしまったわけだ。

花子ーでも砂漠に運河で水を引いたり,オーストラリアの大鑽井盆地のように地下水をくみ上げたりして緑化すれば,耕地や森を回復することもできるんでしよう。現にソ連の自然改造計画で世界一の綿花地帯ができたり,アメリカ合衆国でも砂漠の中に緑化された都市がつくられたりしているというじゃない。

太郎ーアジア・アフリカの砂漠の周辺諸国は貧しい国が多いから,大規模な自然改造を行うだけの国家的な経済力・技術力・労働力が不足している。

先生ー温帯の森林や耕地でも砂漠化の危険がある。というのが宅地開発や酸性雨による森林の破壊が進んでいるし,肥沃な表土の流失による荒れ地化の危険があるからだ。砂漠を拡大する文明か,緑地や森を拡大する文明かもちろん砂漠化を防ぎ,緑を取り戻せてこそ人類のサバイバルが可能になるんだ。地球生命の代表として人類は緑の地球を守り発展させる使命があるんだ,さもなくば火星化の運命だと思って頑張らなくては。

                 酸性雨          

花子ー酸性雨というのは恐ろしいですね。中部や東部のヨーロッパの森林の多くが壊滅的な打撃を受けているというじゃないですか。どういうメカニズムで起きるのですか。

先生ー工場や自動車から排出されるSOx (硫黄酸化物)やNOx (窒素酸化物)が大気中で更に酸化されて強い酸性になり,酸性の雨や霧や雪になって降り,森林を枯れさせたり,湖の魚を死滅させたりする。大理石の建造物や彫刻なども大きな被害を受けている。

  花子ー中部や東部のヨーロッパの森林を枯れさせている酸性雨は西ヨーロッパの工業地帯で排出されたNOxやSOx が偏西風に乗って中東部の森林を襲っているのでしょう。中国の海岸部の工業地帯からのNOxやSOx も偏西風に乗って日本の森林を枯れさせる恐れはないんですか。

先生ー1979年に国連欧州経済委員会は, 「長距離越境大気汚染防止条約」を締結。85年には「ヘルシンキ議定書」を結んで93年までにSOxを80年比三割削減することになった。東アジアでも中国の工業化に伴う酸性雨被害が心配されている。黄土が黄砂になってNOxやSOxを中和してくれるので,まだ深刻な被害になっていないが,日本でも遠からず酸性雨被害が深刻になると言われている。

太郎ー元々高度経済成長の頃に公害問題で大気汚染が問題になったときも,その原因はNOxやSOxだったんでしょう。小児喘息が多発したり光化学スモッグが発生したりして日本は公害先進国とか公害のデパートと呼ばれていたんでしょう。そして最近も東京ではジーゼル自動車の排気ガスが原因だと思われるNOxによる喘息被害が急増しているらしいですね。NOxやSOxの排出はどうしたら防げるのですか。

先生ー抜本策として工場での排煙脱硫装置,排煙脱硝装置の設置や自動車のエンジン改善,触媒装置の搭載による煙の浄化などを促進することだな。中国の工場の多くはコスト(経費)の面で採算が取れなくなるからといって,こういう装置の取り付けを渋る傾向があるようだ。 

             オゾン層破壊       

  花子ー私が一番恐ろしいと思っているが「オゾン層の破壊」なんです。オゾン層というのが宇宙からの紫外線を吸収してくるバリアになっていて,そのお陰で地上生物は生きていけるのだけれど,オゾン層の破壊が進んでオゾンホールが出来ているのでしょう。もう手遅れになってるんじゃないんですか?

先生ー今までに排出されたフロンガスなどのオゾン層破壊物質が,今後ともオゾン層を破壊していくからそれだけで致命的だという科学者もいるね。なかなかそういうのは実験データから予測できるものじゃないんだ。これまでのオゾン層の破壊にどういう物質がどれだけの役割を果たしていたのかも,確かなことは言えないだろう。だからある程度こういうのは結果論で事後的に知るしかない面がある。しかし今までのオゾンホールの出現からみて,地上生命が絶滅してしまうような危険な事態が進行しつつあることは確かなのだから,それが数年先か数十年先か数百年先かは未確定だとしても,最悪の事態を予想して直ちにフロンガス等の製造・排出の全面禁止を世界中で行うべきだ。

太郎ー先進諸国では1996年中にフロンガスは全廃され,途上諸国についても全廃スケジュールは確定しているのでしょう。

先生ー1985年に「オゾン層の保護のためのウィーン条約」採択され, それに基づいて1987年に「モントリオール議定書」が採択されたんだ。しかしオゾン層の破壊が進行しているので規制を強化し、太郎君の言うようになったわけだ。これらの規制措置が予定通り実施されれば,オゾン層の破壊は西暦二千年をピークにして, その後は回復し, 2045年に元に水準に戻るという予測がなされている。しかし大気圏内が温室効果ガスの為に温暖化すると成層圏内は逆に寒冷化して, その結果オゾン層の破壊が進行するという説もある。 

              地球温暖化        

  花子ーじゃあ何としても地球温暖化を防がないと,水面が上がるだけじゃなくて,オゾン層破壊を引き起こして地上生物の絶滅を招くというわけですね。

太郎ーいろんな危機説をいちいちまともに信じていたら切りがありませんね。

先生ーそりゃあそうだ。だから政府や国連の研究機関などでいろんな説に対して,その説がどれだけ傾聴に値するかよく検討して,その結果を報告するようにしてくれないと困るね。先生が高校生の頃には水爆実験が盛んに行われて,このまま核実験を続けると十年以内に人類は絶滅するという警告が科学者からなされていた。キューバ危機で核戦争の瀬戸際を体験して部分的核実験禁止条約がなんとか締結された。

太郎ーということは核実験を放置しておけば今頃は人類は滅亡していたんですね。

花子ー部分的核実験禁止というのは水中・空中・地上での核実験を禁止するということでしょう。ということは大気中や海中で水爆を爆発させていたことになります。その放射能汚染は凄まじいものだったでしょうね。

先生ー最大二百メガトンの水爆があり,もし大阪でそれが爆発すると一発で日本列島の主要四島では人間は放射能汚染で絶滅するといわれていた。そういう水爆実験を沢山やっていたのだから,核実験だけで人類が絶滅するという説は,十分説得力があったんだ。

太郎ー温暖化は最近,南米ペルー沖で水温が上昇するエルニーニョ現象が活発で,その結果異常気象が南米で起きたり,インドネシアなどで森林火災が拡大したりしている,といわれています。日本では暖冬や冷夏の原因だと言われていますね。実際に深雪地帯での雪の量なんかもかなり減ったと言われていますね。

先生ー「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第2次報告によると対策を取らなければ,平均気温が百年後には2度上昇し,平均50の海面上昇が見込まれているそうだ。島国や低地は浸水し, 農林業でも植生の変化で大打撃を受けそうだ。

花子ー温室効果ガスというのはどういうメカニズムで地球を温暖化しているのですか?

先生ー地球から放出される赤外線を通しにくいガスのことで,これが増加すると地球から熱が逃げないのでちょうど温室と同じような働きをして温暖化が進行しているんだ。これには二酸化炭素の他,水蒸気,メタン(CH4), オゾン, 各種のフロン等だ。地球温暖化への寄与度は二酸化炭素が全体の約64% だ。同量の気体の温室効果の強さはメタンでは二酸化炭素の約21, フロンでは約一万倍もあると言われている。オゾン層破壊力の小さい代替フロンでも温室効果は同じようにあるといわれる。花子ーじゃあ,オゾン層を守るために代替フロンに代えたら今度は温暖化でまた別のに代えなきゃいけない。結局無理なような気がしてきますね。

太郎ーだからガスで冷蔵庫を冷やすという方式を止めて別の原理でヨーロッパでは冷蔵庫を冷やしていますね。そういうように発想の転換をしながら,地球環境との調和を図っていかないといけません。そして別のがなければ,生活の上での不便を耐え忍ぶ必要も当然あるわけです。夏を涼しく,冬を温かく過ごすという生活スタイルが本当にいいのかという文明批判も必要かもしれませんね。

先生ー全くだね。日本は四季の変化があり,それで身体も鍛えられ,健康を保ち長生きが出来たとも言われる。エヤコンで一年中春みたいな環境で過ごしていると,感覚が鈍くなっているんだ。季節の変化を身体で感じて喜ぶという本当の快楽を喪失しているのかもしれない。地球環境問題は,文明によって失ったものを反省させてくれるいいきっかけだな。

花子ーところで京都会議では先進諸国は1990年から6%温室効果ガスの排出量を削減しなければならなくなったわけですが,その為にはどういう方法をとるんですか。

太郎ー身近なところから言えば,電力の節約によってカロリー消費量を減らせば,二酸化炭素の排出量が減るわけでしょう。もちろんマイカーの自粛なんかも有効です。今度はドイツが二酸化炭素の排出量を大分減少させてきたんですが,ドイツでは目標をマイカーの自粛どころか交通体系を自動車文明つまりモータリィゼーションからの脱却に置いているようですね。

先生ー地球温暖化で最も深刻な影響を受けるのが大洋上の島国と共にヨーロッパだという説がある。温暖化によってメキシコ湾流の流れが変化して,偏西風が温められなくなり,西ヨーロッパが極地並に寒冷化する恐れがあるといわれている。そうすると西ヨーロッパには人が住めなくなるんだ。

太郎ーアメリカ合衆国などは1990年並の水準でよいとしていていたのですが,あまり規制を厳しくすれば, 折角の好景気に水を差すことになると心配しているようですね。日本は削減の為に原子力発電所を増やすつもりらしくて, 最近の原発事故もありかえって心配されていますね。

花子ー原発というのはクリーンエネルギーだと言われていますがどういう意味でクリーンなんですか?

先生ー地球温暖化防止の為に二酸化炭素の排出量を減少させる方策として,原発の増設が必要だと日本政府は訴えている。火力発電所だと石炭や石油を燃やすから、二酸化炭素やS0x が大量に発生する。その点で原発は,ウラニウムやプルトニウムを燃料にするので,大気中に二酸化炭素やS0x を排出することはない。クリーンといわれる所以だ。だから温室効果ガスの排出量が少ないという面では確かに優等生なんだ。ところが今,地球温暖化の防止が第一の目的なんだろう。その点からは原発は大いに問題だな。

太郎ー温排水の問題ですね。原発は原子力の熱で水を沸かして水蒸気にし,それでタービンを廻して発電しています。それで大量の温排水を海に流しているわけです。お陰で海水の温度が上がりますから,直接氷を融解して水面を上昇させる役目を果たします。

先生ー政府は原発を増設すれば、温排水がどれだけ増加して,その結果海水にどれだけの影響を与えるかきちんと数字で出して,火力発電所に比較して温暖化効果がどれだけ多いか少ないかを提示しないと無責任の極みと非難されてもしかたがない。温暖化問題を利用して原発を増設するとなると,そうまでして原発を増設する本当の狙いは何かと諸外国から疑惑の目で見られかねない。 

                原子力発電所       

花子ー原発をめぐって国民の世論は大きく割れているように思いますが,そんなに危険なものなのでしょうか。また危険があっても進めなければならない事情があるのでしょうか。

太郎ー原発の危険性のシンボルは,1986年ソ連のウクライナのチェルノブイリ原発の大爆発事故だ。なにしろ,8.2 万・に放射能をまき散らし, 推定死亡者は数千人, 被害者総数は数百万人にものぼると言われている。

花子ーソ連では管理がずさんだったのでしょう。もう体制ががたがただったから。

先生ー日本の管理はソ連に比べればかなりしっかりしているかもしれない。でもその日本でさえ最近は重大な原発事故が起きている。それに日本だっていつまでもしっかりした管理体制を維持できるとは限らない。将来的にはがたがたになる事態が起こらないとも限らないんだ。原発推進派はソ連と違って日本は大丈夫だと考えているけれど,日本がトップレベルの経済力・技術力を維持出来るのはいつまでか,予測することは極めて難しいことだ。

太郎ー1997年3月の動燃の東海事業所事故では,いったん鎮火した筈の火災が再燃して爆発事故を起こしちゃったのでしょう。かなりずさんな事故管理体制ですよね。動燃は199512月,わが国初の発電用高速増殖炉「もんじゅ」の性能試運転にナトリウム漏れから火災や損傷事故を起こしたばかりです。

花子ー動燃じゃないけれど1991年2月に福井県の関西電力の美浜原発で蒸気発生器の細管破断による放射能もれ事故がありましたね。これで日本の原発は安全だという神話が崩れました。

先生ー新しい合金を使って細管を造っていると耐用年数を予測するのは難しい,耐用年数というのは結果的に分かるものなんだ。世界最先端の技術を使うとかえってそういうリスクを伴うことになる。政府や電力会社は資源問題や環境問題,電力需要の増加を理由に原発を増やす必要をキャンペーンしているけれど,それは十分に安全な原発が造れるようになってから言えることだ。だからまだ研究・実験段階なのに普通の原発の数千倍の危険性を持つ高速増殖炉や再処理工場を,いきなり実用のを造るのは無謀だと言われても仕方がない。一度の大事故で数百万人が死ぬようなことになるかもしれないだけに,たとえ経済的な必要を認めたとしても,最初から実用のを造るという日本政府の姿勢は正常とは言えないな。

太郎ー原発は危険性はあっても,原発推進派はやはり石炭・石油・天然ガスといった化石燃料は資源が尽きるので,再処理できるようになれば資源枯渇の心配がすくない原発に頼らざるを得ないと考えているようですね。

先生ーそれはどこの国でも言えることだ。しかし再処理工場のように,普通の原発よりも数千倍危険なものを狭い日本に造らなくてもいいんだ。国際的な機関で慎重に原子力平和利用の研究開発を行い,安全な技術を開発してから各国でその成果に基づき実用に乗り出せばいい。

 

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