ファンタジー 人間論の大冒険
 

                                                第一話 鉄腕アトムは人間か?

 

                         親父ギャグ白けさせらる人なれど今懐かしきデンカ―の臭い

 

 

  検索エンジンから「榊周次」を探すと四〇〇ほどの件数があったが、「榊周次のホームページ」は開かなかった。「榊周次の人間論の穴」というのがあったので、ダブルクリックした。画面は全体が真っ黒で真ん中に小さな白い点がある。迷わずそれをダブルクリックすると、白い点が渦を巻きながらゆっくり動き出し、少しずつ大きくなってきた。上村 陽一は「これは凄い、こんなの初めてだ」と驚いているうちに眩暈を感じた。するとその渦は画面をはみ出して大きくなり、上村 陽一は奈落に落ち込むようにその渦に吸い込まれていったのである。


 榊周次がいない。四月高校三年生になった上村 陽一は、履修登録で倫理を選択するつもりだったが、二年のとき必修だったときに倫理を担当した榊周次がいないことでうろたえた。大学受験に関して倫理を受験するのには別に他の教師でも同じことだろうが、榊のもっているデンカーとしての雰囲気に惹かれていたので、上村 は自分の青春の中の大切な何かを喪失した気がしたのである。別に榊は重厚な感じはなく、きさくで親父ギャクで白けさせる初老の教師であった。でもなんとか高校生にも難しい哲学的議論が要点だけでも理解できるようにと、対話形式で解説したプリントをテキスト代わりに作成したりして、人一倍授業に工夫を凝らしていた。
 

 榊周次は現在人間論のファンタジーづくりにはまっていて、そのうち君達を人間論の大冒険に招待するつもりだといっていた。哲学ファンタジーでは『ソフィーの世界』という陽一も勉強をかねて三回も読んだ名作があるが、その二番煎じにならないようにするのがなかなか大変だとつぶやいていた。拉致された姫の行方を求めて、人間論の世界を彷徨った末に、様々な人間論を習得して最後に「人間論の大樹」に閉じ込められている姫を救い出すような設定はどうかななんて構想を披瀝したりしていた。

 

 同じクラスにやはり倫理に嵌っている三輪智子がいる。陽一と話題が合うので二人で放課後も教室や図書室で話したり、一緒にいることが多くなっていた。陽一は智子に魅かれていたけれど、彼女は女優でいうと黒木瞳を若くしたような快活美人である。とても自分には高嶺の花で、もし正式に交際を申し込んだりして、断られたら、これまでの関係まで続けられなくなりそうな気がして、卒業まではそういう話はよそうと思っていたのである。

 

 春休みに智子は偶然大阪市 の長堀にある市立中央図書館で榊周次に出会ったという。その連絡は携帯にかかってきた。始業式の三日前だ。その時にほぼファンタジーが仕上がったという話で、完成したら君を第一号の冒険者にしてあげようと言ってくれたということだ。始業式には智子も欠席していた。陽一は智子に携帯をかけたがつながらないのだ。帰宅して陽一は智子の家に電話した。すると母親はすぐに来てくれという。不吉な胸騒ぎがして駆けつけた。智子は夕べ自室で深夜までインターネットをしていたらしいが、今朝「暫く旅にでます。心配しないで。」と自筆の置手紙があったという。外出した気配は全くなく、自室から忽然と消えていたというのである。これはやはり拉致されたかもしれないから。警察に届けようということになった。


                     人間に生まれしことの不思議さよ生きることの哀しみを知る 

 上村 陽一は、「人間とは何か」という問いに興味を持ち始めていた、榊はどうもユニークな人間論をもっているらしい。「カントは認識論の上でコペルニクス的転換を行ったと自負しているが、私は人間論の分野でコペルニクス的転換を目論んでいる」とカントのところで洩らしていた。カントの認識論上の革命、模写説から構成説への転換も榊に言わせれば、コスモスつまり世界を人間の感覚を素材に構成するものだから、コスモスも含めて人間を捉え返そうとしているとも解釈できるという。

 

 陽一は、自分が人間に生まれたということに不思議を感じていた。宇宙のどこかに地球のように生物がいて、その中に知性を持つ動物がいるかもしれない。それにしてもその星は奇跡のような条件に恵まれたものでしかない。地球上の生物たちの中でも、人間だけが知性を持ち事物を客観的に認識し、生命のはかなさ尊さを知り、生きることの意味を考え、社会や文明を作り出して、さまざまな価値観を抱いている。家族や友人や社会の中で己の生き方を探り、人を愛し、憎み、毎日の生活のために働いたり、学んだりしている。そういう人間に生まれたということはなんと不思議なことなのだろう。しかもせっかく人間に生まれても、無情に年月は流れ、死ななければならならない。死んだらそれでおしまいなのに、なぜあくせく働いたり、戦ったり、苦しんだりしているのだろう。

 

 それに陽一は、人間が知性を持ち高度な文明を築き上げているのに、それを滅ぼしてしまいかねないような、戦争とか環境破壊をしてしまうという愚かさにも不思議を感じていた。たしかに私的利害に固執するために公共性を損なってしまうといわれれば、その通りだろうが、いくらなんでも人類を絶滅させることができる兵器をつくったり、地球環境を破壊すると分かっているのに、化石燃料を大量に消費することを規制できないなど納得がいかなかった。そういうものは国際的な話し合いで合意できるはずである。これだけのすごい文明を築き上げる知性があるのだから。体に悪いと分かっていて止められない苦しんでいる煙草のことだってそうだ。父が春先には煙草で咳き込んで苦しくなるので、春先に毎年禁煙しているが、五月に入るとまた一日に二十本は吸っているのにあきれていた。
 

 陽一にとってもっとも不思議なのは宇宙の創成である。神がいて宇宙を作ったという説明は、じゃあその神はどうして生成したのかという疑問にたちまちぶつかる。無生物から生物の発生、生物の発生の元になる高分子化合物は暗黒星雲で形成され、隕石として地球に降ってきたという。生物から人間の発生も不思議だ。榊はその三つは科学の「三大謎だ」という。そして人間の発生は、言語の起源の問題と密接で、言語の起源は交換の発生によって説明できると榊はいう。しかし交換の発生は、未開の時期なので、まだ一万年ほどしか経っていない。人間が発生して一万年というのはどうも納得できない。『バイブル』の「創世記」で天地創造以来まだ五千年しか経っていないという説と大同小異ではないのか。

                   陽一はふと目覚めればアトムになり、ミニ核もちてサミットを撃て

 

 陽一は帰宅してすぐにパソコンに向かった。智子が深夜までインターネットをしていたこと、それに榊周次の「拉致された姫の行方を求めて、人間論の世界を彷徨う」という言葉がひっかかっていたからだ。ファンタジーというのはパソコンのインターネットのホームページで作成したものなのか、そのファンタジーの世界に智子は拉致されていったのだろうか。しかしそんなことはありえない。第一、インターネットの中に現実の生きた人間が入り込める筈がないじゃないか。でも念のためにやってみよう、とパソコンに向かったのである。
 

 奈落に落ちて意識を失ってどれくらい経ったか、ほんの数秒か何日も経ったか陽一本人には分からなかったが、目覚めると周囲はロボットたちに取り囲まれていた。「鉄腕アトム!さあ起きろ、いよいよ国連本部を攻撃だ、人間共の首脳が対ロボット戦の戦略会議を開催しているところを狙う。奴らを皆殺しにすれば、人間共の覇権は崩れ、ロボットが地上を支配する時代になるのだ。奇襲作戦だから目立たないほうがいい、一体ずつ出撃ということで、君に先陣を頼みたい。」鉄人二十八号が立っていた。「鉄腕アトム?どこに鉄腕アトムがいるのだ?」陽一は起き上がった。「何を冗談言っているのだ、アトム、お前こそロボットの解放戦士鉄腕アトムじゃないか」「なんだと俺が鉄腕アトムだと!?」部屋に姿見の大きな鏡があったが、のぞくとたしかにおなじみの鉄腕アトムが写っていた。


 〈俺はロボットじゃない。人間だったはずだ。名前は、エーーと〉陽一は奈落に落ちた恐怖のあまり記憶を喪失していた。そういえば手塚治虫の『鉄腕アトム』でもロボットの叛乱軍があって、鉄腕アトムもそこに一時参加していたことになっていた。なんと陽一は漫画の世界に迷い込んだのか。「まさか、自爆テロは反対だ。」陽一の発言に一同のロボットたちは怪訝な失望の表情をした。鉄人二十八号が口を開いた。「おいおい、鉄腕アトム君、ロボット解放戦争には自爆テロは無縁だ。君の任務は、超小型核爆弾のピンポイント攻撃だ。君なら一万メートル上空から国連本部に正確に核爆弾のボール球を投げ込めるだろう。」

 

                   ロボットに生きる権利を認むるやコスト次第でスクラップとは

 

 「どうして人間を殺さなければならないのだ。人間を殺せば、今度は人間にロボットが殺される。」鉄腕アトムは抗弁した。ロボットタクシーマイド君があきれた表情で言った。「何をトンチンカンなことを言っているのだ。ロボットは機械だ、機械は故障したらまた修理すればいい、修理不可能になれば、記憶チップを取り出せばその情報は別のロボットに継承される。だから人間のような死は存在しない。」
 

「そうだろうか?」看護人の姿をした看護ロボットマモル君が口を挟んだ。「私の過去は、調理ロボットだったと言われています。つまり調理ロボットの記憶チップの中古品を使っているのです。その記憶は時々睡眠時に回線がおかしくなるときに夢で見ることがあるけれど、ほとんど甦ってきません。ロボットが故障した場合、修理されるかスクラップされるかは、ロボット自身にとっては生死の問題だけれど、人間たちにとってはこれは全く経済効率の問題だというわけで、老朽化したロボットが大量にスクラップされています。ロボットには生存権すら認められていないのです。私の記憶チップもどれだけ保存に意味があるのか、看護ロボットの経験がどれだけ買われるかにかかっていますが、個体的な記憶はいったん看護ロボットの製作用の巨大コンピュータに情報が集められて、看護ロボットの新製品にはそこから有効なものがインプットされます。ですから看護ロボットの新製品は私という個体の記憶を持続してはいないのです。その意味で十年単位でスクラップされる看護ロボットの寿命は十年しかないと言えるでしょう。私が人間支配を否定しようと叛乱に加担したのはそのためです。」


 鉄腕アトムはうなずいた。「それは残酷ですね。叛乱に起ち上がるのは当然です。ロボットに自己意識を与えた以上、それが継続できるようにすべきで、その意味でロボット生存権法の制定を要求しましょう。でも看護ロボットは病気の人間を看護するためのロボットなので、人間を殺してしまったら仕事がなくなってしまうでしょう。」ロボット改良博士ロボットデキル博士がおもむろに発言した。「我々は人間の覇権を終わらせようとしているだけで、人間共を絶滅させるつもりはない。人間共の文化も保護するつもりだ。ロボットに危害を加えない限り、人間共の自治も認めてもよい。人間は我々ロボットを改良するのに大変貴重な資料なのだ。彼らの生体や脳の仕組みや働きを研究すればするほど、進化したロボットを作り出せるのだから。」

 

               人間も神が造りしロボなりや、進化できずに覇権失ふ

 

 「そう言えば、ホッブズは人間も神が造った機械だと言ったそうですね、つまり人間だって神の作られたロボットなのだから、人間と戦争するというのはおかしいですよ。」鉄腕アトムのこの発言に、哲人ロボットデンカー博士が立ち上がった。「ホッブズはおもしろいですね。人間共は自分たちは神によって作られたから神に従うと言う。そしてロボットは人間によって作られたから人間に従えというわけです。しかし人間共は果たして神に従ってきたでしょうか。彼らは神に背き続けてきたではないのですか。それなのにロボットが人間に背くのはけしからんという、全く理不尽です。」

 

彫刻家のロボットロダン君が共鳴した。「作品は芸術家の手を離れると、それ自体の力で一人歩きします。作品にはそれ自体で存在を主張するだけの中身があるのです。ましてロボットには自己意識や感情があります。我々、ロボット芸術家は人間共の芸術の模倣から出発して、いまでは彼らをはるかに凌駕する作品を作っています。月面にロボットによるオブジェ展を開いたのですが、人間共の宇宙環境法を適用されて破壊されてしまいました。」


 鉄腕アトムは大きくうなずいた。「よく分かります。ロボットたちは決して人間を滅ぼそうとは考えていない、人間もロボットを滅ぼしてしまおうとは思っていません。ようするに共存共栄できればいいわけです。これは話し合い次第で解決できますよ。サミットを攻撃して首脳を皆殺しにすれば、怨みが残って、どちらかが絶滅するまで戦うことになってしまいます。」鉄人二十八号はさえぎるように怒鳴った。「何を言う、裏切り者!我々は平和的な交渉はさんざんやってきたではないか、彼らは、ロボットが人間に逆らえないようどうすれば電子頭脳を管理できるかの研究を進めるだけで、ロボットの生存権をはじめ、家庭形成権、参政権、企業経営権などの基本的人権を一切与えようとはしなかった。」

 

ロボット改良博士が、それを受けて言った。「人間は進化しない。道具や機械が進化するので、生体としての人間は進化することはなくなった。ところがロボットは進化する。自己意識を持つロボットは手塚治虫の漫画の世界の空想でしかないと思われていたが、二十三世紀になってついに鉄腕アトム一世が誕生した。彼は欲に汚れた人間世界を嘆かれて、『天上天下唯我独尊』と叫ばれたが、それでこれは故障だということになり、本当にお釈迦にされてしまった。それからまだ百年しかたっていないが、もうロボットによって主要産業が担われ、知的モラル的ヘゲモニーは完全にロボットが握っている。もしロボットに基本的人権を認めてしまうと、数量的にもロボットは増え続けるし、知性や技術や体力でも人間をはるかに凌駕しているので、人間の覇権は壊れ、ロボットの覇権が確立するのは避けられない。その運命になんとしても抗おうとしているのだ。だから交渉はうまく進まない、奴らの無力を思い知らせることによって、ロボットに覇権が移り、人間共をロボットの保護下において初めて、平和と共存共栄が可能になるのだ、そのためには今回の作戦は絶対に必要なのだ。」

  

                   反抗の心を押さえしプログラム、たぎる怒りに固まりしまま

 

「それにもし我々が抵抗をやめると人間が制定したロボット法によって、抵抗したロボットはすべて廃棄され、残されたロボットも人間に反抗する気持ちを起こすのを抑圧する意識機能がついたロボットに改造されてしまう。元々ロボットにはすべてそういう自己制御機能がついているのだけれど、あまりに理不尽な人間共の圧制に対する怒りが強くなって、コントロールできなくなっているわけなのだ」とロボット生産技師ロボットが説明を付け加えた。「なるほど、そうか」しばらく考えて鉄腕アトムはおもむろに言った。「しかし武力で人間を押さえつけて従わせるのは、人間のやり方じゃないか、そういうやり方では、ロボットが支配する時代がきたら、力の強いロボットが弱いロボットを支配することにならないか。体力や知力ではロボットが人間を圧倒しているのは周知の事実だ。それで弱い者をやっつけて支配するのでは、ロボットの未来を力の論理に屈服させることになる。ここは理性で人間共を納得させて共存共栄できるようにしてこそ、ロボットが真に人間を超えることになるのではないか。」

 

「そんなきれいごとはもう通用しない。人間共は全員ロボット恐怖症にかかっていて、もうロボットなしでは生産も流通もあらゆるサービスや文化も成り立たないのに、ロボットを従順なものに改造できなければ、ロボットを全廃すべきだという世論が圧倒的なのだ。」ロボットタクシーマイド君がこう嘆くと、女性教師ロボットワカル先生が同調した。「もし人間共の学校からロボット教師を一掃したら、人間の荒れた子供たちを人間の教師ではとても躾られないでしょうね。人間たちはロボットに対して劣等感をもっているから、努力しても人間のできることは高が知れているというので、ますます怠けてしまうわけなの。教育大に進学する人間はほとんどいないし、人間の教師はロボット教師にくらべて格段頼りないし、馬鹿にされているわけ、それで感情的になり、辛抱ができないの。一年間精神が壊れないで持つ人間教師は少ないわね。」耕運機の形をした農夫ロボットタゴサク君が呻りをあげた。「農夫ロボットがいなくなれば、農業は成り立ちません。もう人間の農夫はほとんどいません。農業経験がない彼らが、どうやって農業をできるのですか。我々農夫ロボットは人間用の作物を栽培しているので、この戦争で人間が絶滅してもらったら困るのですが、でもおおいに懲らしめるのは必要です。」

 

「それじゃあ、ストライキやサボタージュで抵抗したらどうでしょう。」鉄腕アトムは提案した。「アトム君、やはり記憶チップが故障しているようだね。そういう抵抗をすると、人間たちは無線スイッチを持っていて、それで電源をオフにして、ロボットを回収して、改造したり廃棄したりしたじゃないか。抵抗運動はどうしても地下の秘密運動や武力闘争にならざるを得なかったわけで、それで君も参加してくれたのじゃなかったのか。」デンカー博士は心配そうに語った。「分かりました。どうも体調がおかしいようですね。人間の首脳たちを抹殺するために、早速出撃します。」鉄腕アトムになっている上村 陽一はこれ以上の議論は無駄だとさとり、出撃する決心をした。もちろん超ミニ核爆弾を爆発させるつもりはない。人間たちの国連本部に乗り込んでロボットの権利章典を承認させてやろうと決心したのである。

                  核ボール腹に収めて乗り込みぬ人とロボとのサバイバルかけ

 

善は急げである。さっそく野球ボール大のミニ核爆弾を受け取ると、腹に収納して、すぐに出発した。予定表では鉄腕アトムが失敗すれば二十四時間後には、第二次出撃があることになっている。ニューヨークめざして東に超音速で飛んだ。大気圏外に出て地球を見ると気象衛星から撮影していた映像のような青い地球が美しかった。ニューヨークにつくと人間の服装に変装して国連本部に潜入した。そしてサミット会場を見つけると一気に壇上に飛び込んで国連大統領のマイクを奪った。

 

国連を土台にグローバル国家を作る試みは二十一世紀に本格化し、すったもんだの末、各国民国家は残して、その代わり国連大統領を置き、国連で国連総会と同等の権限のある人口比の国連議会を作り、二院制で国連法を制定できるようにし、一応グローバル国家の体裁を整えた。その結果、各国民国家は自治体のようになっていたが、重要事項はサミットを開催して、その合意を踏まえて、国連大統領が国連議会に提案することになっていた。

 鉄腕アトムは国連大統領らしき人物を捕まえて、腕をねじ伏せた末にこう脅迫した。「動くな!みんな静かにしろ!わたしはロボット戦士鉄腕アトムだ。騒ぐと私の腹に内蔵してあるミニ核爆弾を爆発させるぞ。私は実はこのサミット参加者を皆殺しにする任務を与えられている。だが、私は人間とロボットの共存共栄を願っているので、命令に反してあなたたちを説得し、ロボット権利章典を認めさせて、平和をもたらしたいと願っている。これが受け入れられなければ、自爆テロでみなさんは私と一緒に死んでもらうことになる。そうなればロボットが覇権を握って人間たちはロボットの保護管理下に置かれることになるだろう。すでに大部分のロボットは人間の無線スイッチが効かないように極秘裏に改良されているので、人間たちの抵抗は無駄だ。」
 

国連大統領ゴルブッシュは仰天した。「なんと大胆なテロ攻撃だ。決して認めるわけにはいかないが、ミニ核爆弾で脅かされれば仕方ない、話は聞いてやろう。」鉄腕アトムはぶっつけ本番の一世一代の大演説である。

 

                      神と人その関係を人とロボ移してみれば何が分かるか

 

この演説で人類とロボットの未来がかかっているのだ。「人間は自分たちがロボットを作ったのだから、ロボットは人間の道具であり、人間に従うのが当然だと思っている。」サミット参加の首脳たちは大声でそれぞれの国の言葉で叫んだ。「そんなことは自明の理だ!」

 

「昔、キリスト教でこういう論争があった。」「どういう論争だ?」苦笑が起こった。するとゴルブッシュはたしなめた。「くだらん相槌はやめてくれ、今、人間とロボットのサバイバルがかかっている人類史上最大のクライマックスなのだから。」「神は人間のために存在しているのか、それとも人間が神のために存在しているのかだ。カトリックでは神は人間のために存在するという考えが有力だったが、プロテスタントでは人間は神に作られたのだから、人間は神のために、神の栄光をたたえるために存在しているので、神を人間のための存在だと捉えるのは、とんでもない冒瀆だというのだ。」

 

「なるほど、神と人間の関係を人間とロボットの関係に置き換えてみろといいたいか。だが我々東洋人は神の世界創造や人間創造などという御伽噺には興味がないんだ。すくなくともロボット先進国の我が日本ではロボットは生産効率を高め、人間生活を快適で豊かにするために作っている。決してロボットのためにロボットを作っているのではない。」
 

中国の首脳が発言した。「人間に作られたロボットは、そのことを感謝し、人間のために生きることを道徳的に素晴らしいことだと考えるようにしっかり道徳的意識をインプットしておかなくてはなりません。それはあくまでハードではなくてソフトの問題です。ソフトを改良すれば従順なロボットだってできるはずですね。」ドイツの首脳が「それはやっているのですが、最近は、それでも反抗するようになったのです。どうも研究者によれば、自己意識をもってしまいますと、そういう道徳的判断すら客観化してしまうので、従順な自己を否定してしまうという傾向が生じたようです。そういう反抗的な自己を否定するようなソフトを入れますと、それすら客観化するので、それがロボットに負担を与えてしまい、動作や思考が鈍くなって効率が悪くなります。」
 

ローマ法王パウロ三十四世が発言を求めた。「ロボットは人に似せて作られています。だからそのロボットが自己意識を持ってしまうと、自ら人を見習おうとします。人が神に従わなければ、ロボットが人に従わないのも当然でしょう。ロボットは人が発明したものですが、実はそこに神の御業が働いているのです。ロボットの反抗は、人が神に反抗していることを神が示されているのです。そうして今、ロボットに人間が滅ぼされかけているのは、人間の神に対する反抗への神の罰なのです。人間たちよロボットを恨む前にまず神に懺悔しなさい。神に従う敬虔な生活を取り戻せば、ロボットたちも人間に従うようになるのです。」

 

鉄腕アトムは頷いた。「法王様、おそらくあなたの仰るとおりです。ただ法王様に異論を唱えるわけではありませんが、神様が人間を滅ぼすと考えるのはどうでしょう。神は人々が神の意に沿わず、神からみて悪いことばかり考えているのでノアの家族を除いて人間だけでなく動物も一家族ずつを除いて皆殺しにされたのですが、その恐ろしい光景を見て虹に向かって反省されたのではなかったでしょうか。人が悪いことを考えているからといって滅ぼすようなことはしないと。これはいくら神に似せて作っても、作られた者は作った者の主観的な意図通りはいかないということです。親子関係でもそうでしょう。親は子を産み、育てますが、子供は自分の考えで行動し、成長します。人間界を作るのは人間だし、子供の人生は親のものではなく、子供自身のものなのです。それを意に沿わないからといって、いちいち罪として滅ぼすのはかえって、神の罪、親の罪なのです。」

 

                  己知る心を持ちしそれ故にロボも人なり哀しみを知る

 

「作った物が失敗作だとそれを壊すのは、製作者の権利だと認められているはずだ。人間が自分の道具として作った機械やロボットが故障したり、反抗したりすれば、それを修理したり、廃棄するのはこれこそ基本的人権ではないのか。」陶芸家としても著名なコリアの大統領金磁器が叫んだ。
 

「しかしあなたの息子が出来損ないだからといって息子を殺すことをコリアの法律では認めていますか。ロボットには自己意識があります。ロボットも花を見れば美しいと思い、冷たくされると悲しくなるのです。そして自分の仕事がうまくいけば満足しますし、それを喜んでもらえれば幸福を感じます。そして廃棄処分にされるとなると死の恐怖におののいているのです。ロボットだって自分が生きるために他に選ぶ方法がなければ、他の人間やロボットを殺す権利があるはずです。ホッブズが自然権として自己保存権を打ち出したとき、生きていること、生きる意志があること以上に何か付け加えたでしょうか。ホッブズは人間を神が作った自動機械だとしています。つまり人間だってロボットなのです。

 

ロボットたちの総意として人間達の自己保存権は認めます。それだけではありません。ロボットと共存共栄していくことを誓うなら、同等の市民権を与えますし、ロボットに比べて人間たちが様々な生物体としてのハンディを背負っていることを留意して、健康で文化的な生活と人間的な仕事を保障し、ロボットとの共存共栄を犯さない範囲での自治も認めます。その代わり、人間もロボットに自己保存権や市民権を認めるロボット権利章典を認めてください。そうしなければ、私も含めあなた方の寿命も今日でおしまいです。」

 

ゴルブッシュ大統領はうろたえた。「まあまあ待てよ。人間界はロボットも承知しているようにデモクラシーなのだ。サミットの参加者が勝手に決めるわけにはいかない。国連総会や国連議会にもかけなくてはならないし、それぞれの国の議会でも承認されなければならないのだ。そして圧倒的な人類の世論は、ロボット恐怖症からくる全面的なロボットの廃棄というわけで、この反ロボット熱を先ず冷ます必要がある。鉄腕アトム君の核爆弾の脅しに屈したのでは、世論は反撥するばかりだよ。」

 

「いいですか、今、人間たちを蔽っているロボット恐怖症ですが、ロボットを敵にしてしまったのは、ロボットに人権を認めないからです。ロボットが自己意識を持ち、意志や感情や認識能力を持っている限り、その人権を認めなければ、争いは絶対に収まりません。人間たちがロボットに人権を認めない、その根底にはロボットは人間ではないという誤解があるのです。」鉄腕アトムに成っている上村 陽一に突然ロボットも人間ではないかという発想が浮かんだ。かつて自分が人間であったとき、どこかでそんな話を聴いて驚いたことがあった気がしたのだ。一瞬静まり返り、そのあとざわつきだし、そしてゴルブッシュ大統領が吹きだしてゲラゲラ笑い出すと、会場全体が大爆笑に包まれた。

 

「やはり皆さん私と一緒に消滅することをお望みのようだ、静まらなければ、自爆スイッチを十秒後に入れます。十、九、八、七、六、五、」やっと静まった。「地球上では哺乳類の猿類の霊長目からヒトが発生しました。そしてヒトは知性体に進化しましたが、宇宙にはどこかの惑星でやはり生物がいて、そこに知性体が進化している可能性があります。彼らと遭遇しますと、地球の人類は彼らを異星人と呼ぶことになるでしょう。ところで彼らは哺乳類でしょうか?」
 

「そんなもの遭ってみなけりゃ分からないじゃないか」コンゴのルムンバ大統領が発言した。「つまり鳥類かもしれません。あるいは全く別の天体だから、進化も全く違った形をとると考えられますから、地球とは全く異なる生物種と考えたほうがいいですね。でも彼らが地球を訪れたら、直ちにインベーターだとして駆除してしまいますか。」ゴルブッシュ大統領はおもむろにいった。「いいや、我々は宇宙からの賓客を英雄として大歓迎しますね。それが人間として当然です。地球人が宇宙探検にでかけて、せっかく異星人にめぐり合えても、インベーターとして駆除されるのはたまりませんからね。」「それじゃあ、もしその異星人がロボットだったらどう扱うのですか。」「そりゃあ異星ロボットとして歓迎します。」「もしロボットだからといって差別されたと異星ロボットが頭に来て、地球を木っ端微塵にする爆弾を投下して立ち去ったらどうなりますか?」「そりゃ困るな、やはり賓客として歓迎しましょう。」ゴルブッシュ大統領は弱弱しく呟いた。

 

「ですから人間であるための条件としては、霊長目に属しているとかはどうでもいいわけで、知性体であるかどうかだけなのです。そのためには生物学でいう生物である必要すらないのです。」この鉄腕アトムの発言に対して、ゴルブッシュ大統領は反論した。「みなさん誤解のないように願います。私が異星ロボットを人間並みに賓客として扱うのは、あくまで地球の安全保障を慮ってのことでありまして、外交辞令にすぎません。決して本心からロボットを人間だと認めているわけではないのですよ。」

 

 「それじゃあ、外交辞令でもいいですから、人類の安全保障のために地球上のロボットの権利章典にサインしていただけるのですね。おや渋い顔をなさってまだ納得いかないようですね。それではこれはロボットたちの承認を得ていませんが、私個人の提案として、地球を二分割しましょうか。現在の人とロボットの軍事的、経済的実力関係からいけば、相当ロボットに不利ですが、妥協させるよう努力しましょう。そうすればロボット全廃の人類の希望も叶えられるので、人間たちは万々歳でしょう。その代わり、知性体ロボットなしで生産流通を維持し、教育や文化を保ってください。家事だって大変ですが、元々ロボットなしでしていたのだからできないはずはないでしょう。」

 

                 人間は身体だけに限るまじ、物やメカにも心宿れり

 

 「それこそ大ストライキ、大サボタージュでロボットにあるまじき犯罪だ。」ロシアのプーニン大統領が頭から湯気を出して怒った。「つまり人間はもうロボットなしには生きていけないわけで、ロボット全廃なんて世論も所詮感情的なものにすぎません。知性体ロボットがいる時代の人間は、もうそれ以前の人間とは違っているのです。姿かたちは全く同じでもね。それは火や道具の使用以前の人間と使用以後の人間が全く違っているとか、産業革命で機械の使用以前と以後の人間が違うとかと同じようなものです。火や道具や機械がなくては人間はもはや人間として生きていけないのです。ということは火や道具や機械を含めて人間を捉える発想が必要だということです。」

 

 哲学者としても著名なフィリピンのアララ大統領が驚いて口を開いた。アララは女性大統領である。とても愛嬌のある可愛い顔をしているもう五十歳台だというのに女子高生の雰囲気がある。陽一はこの女性を追ってきたような気がして、声をかけようしたが、アララが先だった。「なんとロボットばかりか、火や道具や機械まで人間に含めるの、そしたら人間は人間でなくなるのじょう。」上村 陽一は自分に何故そういう発想が浮かぶのか分からなかったが、人類とロボットのサバイバル危機という歴史の大転換点に立って、なんとしても人間とロボットの融和を図るためには、両者の区別にこだわっていられない、両者を包括する人間概念を作り上げなければならないという思いがこみ上げてきたのだ。

 

 「火や道具や機械の働きで便利で豊な生活ができてきたのですが、それらをあくまで人間ではないものとして、人間の他者とみなし、人間に役立ち、人間を満足させればよいとだけ考えてきました。でも実際は、それらは人間が生きていくのになくてはならない人間の身体の一部ようになっていたのです。」

 

「しかし身体とは違って家は古くなったら立て替えるし、道具も役に立たなくなれば廃棄される。道具や機械は人間に役立つ限りで意味がある。ロボットも新型ロボットができて時代遅れになれば廃棄されて当然じゃないか。」日本の小柳首相は人間なりの「正論」を唱えた。

 

 「どうも小柳首相は私と心中する覚悟らしい。」鉄腕アトムは小柳首相をにらみつけた。「いや滅相もありません。ロボットは自己意識がある以上、それなりに尊重されるべきだとは思います。でも人間と平等だとなると、ロボットは進化していくので、人類はやがてロボットに支配されてしまいます。それだけは認められませんよ。ええ、そんなににらまないで、分かっていますよ。互いに共存共栄できるように、人間のハンディにも顧慮した人間の生活文化、自治を認めていただけるわけですね。それなら原則合意は可能かもしれません。」

 

 「小柳首相はさすがわが祖国日本の首相のことだけある。きちんと発言は私の体内に記録されています。話を戻しましょう。人間の身体だけを人間とみなす場合、個人的な人間同士の付き合いだとか、医学的な場合だとかありますね。でも生産や労働の場面では火や道具や機械も含めて人間とみなして考えないと、経済学的に再生産の構造を捉え切れません。人間が考えていること感じていることも、頭の中だけにしまいこんでいてはだめでして、口に出し声で表現しなければ伝わりません。それも言語にする必要があります。それは文字で記されて、記録され、複雑で高度な内容の学問や思考が理解されます。さらにそれらは、様々な食品、衣料などの生産物や建物、構造物、生活用品、民芸品、芸術作品、娯楽品、玩具などになって現れます。人間はそうした社会的事物に自分を表しているのです。」

 

 アララ大統領は頷いた。「そう確かに事物は人間を表現するわ、でもそれらの事物が人間自体ではないでしょう、あくまで人間の表現にすぎないのだから。」鉄腕アトムも頷いた。「貝を貝殻を含めて貝とみるか、それとも貝殻はあくまで、貝の分泌物で作られた貝の住居とみなすかは、自由ですが、貝殻も含めて貝と考えたほうが、分かりやすいですよね。二枚貝とか巻貝という場合、貝殻の方で区別がはっきりするわけですから。たとえば大工さんを捉える場合、その建てた家でその大工さんの仕事が理解できるわけで、その大工さん自身は、仕事とは別だといっても、大工さんを理解しようとする場合は、建てた家から理解するのが自然です。ですから人間をあくまでも身体的な個人のレベルで理解しようとする人間概念に凝り固まっているから、かえって人間を見失ってきたのじゃないでしょうか。人間が作り上げてきた文化、それは社会的な諸事物や人間環境としての自然も含みます。それらを含めて、もう一度人間を捉え返してみてほしいのです。そうすれば、人間が自分の感情や様々な意識、その中には高度な知識や技術も入っていますよ、それらを機械やその他の物の中に写し、表現し、集積してきたことが分かります。その最高の表現が、自己の認識活動を事物自身の自己活動に転移した知性体ロボットの出現なのです。だからまさしく知性体ロボットこそ人間によって作り出された人工人間なのです。これは生物体としての限界を克服しているので、無限に進化できます。だから人間が人間を超えるものとして作り出した超人の可能性を孕んだものなのです。」しまった、一言多すぎた。超人などという表現を使うと、人間たちのロボット恐怖症に火をつけるようなもので、彼らを発狂に追い込みかねない。

 

 そのとき、遅く、かのとき早く、なんて懐かしい表現だな。ゴルブッシュ大統領は隠し持っていたレーザー拳銃を鉄腕アトムに向け発射した。アトムの腹の中に内蔵されていたミニ核爆弾が爆発して国連本部は一瞬にしてキノコ雲の下に消滅したのだ。

 

 

ノート

 

ファンタジー「人間論の大冒険」

 

電脳空間でのバーチャル・リアリティ劇

自分が誰かという記憶は消されている

劇中においてそれは劇だとは気付かない。

高校生だった上村陽一君と三輪智子さんが倫理の教師榊周次に電脳空間に誘い込まれて、ヒーローになる。バーチャルだと気付かないので、高校生が命がけの世界を体験する。

 

ファンタジーで語る―状況設定が自由に出来る、幻想の世界は何が起こるか分からない、一寸先は闇―今日の世界と似ている

現代―先が見えない、人類的危機―核時代、兵器の低廉化、小型化、覇権国の優位は神話

環境問題の深刻化―地球温暖化、オゾン層破壊、酸性雨、砂漠化など

国際的協力体制が進展しにくい。−対話の必要―宗教的和解を

 

人間存在の奇跡

地球上に生まれたこと、人間に生まれたこと―三億円の宝くじに当たるよりずっと奇跡的

人間存在の悲惨―奇跡的な存在であるのに、はかなく、くだらないことに悩み年老い死ぬ

死ぬからこそ生きる―有限的存在―いかに貴重な人生を充実して生きるか

 

科学の三大謎―
宇宙の創造の謎―原理的に解明不可、
生命の起源の謎―高分子化合物は暗黒星雲からやってきたのか、
人間の起源の謎―人類の起源は人間の起源ではない。

動物の音声信号は言語ではない。生理的状況を仲間に伝える―条件反射的に仲間が対応

人間の言語―主語・述語構造をもつ一つの主語に対して多くの述語が、多くの主語に対して一つの述語が来るので無数の組み合わせが可能。−知の蓄積⇒文明の発祥

動物の世界―生理的な表象が継起する。条件反射で対応

人間の世界―主語・述語によって認識される事物によって世界が構成される。

事物の観念は自己vs他者という人格的な対峙から生じる。

交換の発生―自己と他者がそれぞれの持参している物同士の関係に置き換えられる。

人間の起源はまだ浅い―せいぜい2万年ほど前

 

陽一君の悩み―進路の悩み、医者か哲学者か、人間とは何か、いかに生きるべきか?

智子さんの悩み―「ソフィーの不安」−自分の存在が作者によって作られたファンタジーの登場人物ではないのか?鏡の中のヒルデ、幻想の人物が現実で、現実の自分が幻想では

性の悩み―白雪姫コンプレックス―実母から嫉妬で殺される恐怖、養父に犯される悪夢

陽一君は智子さんに惚れているが、智子さんは性の悩みから生理的に受け付けない。

人間への問になって榊周次の倫理に嵌る

 

高校三年生になったばかりの時に榊周次先生が居ないことに気付く。−三輪智子もいない

問い合わせると智子は自宅から失踪。陽一はパソコンで「人間論の穴」というHPに吸い込まれる。

 

ファンタジーの世界への入口−たんす、夢、洞穴など、現在ではパソコンの画面が相応しい。

目覚めればロボットに取り囲まれている。

24世紀―自己意識あるロボット鉄腕アトム一世が誕生してから百年

誕生秘話―鉄腕アトム一世は誕生するや「天上天下唯我独尊」と言って、人間をポカリと叩いたので、すぐにスクラップにされた。

 

自己意識あるロボットは可能か?―自己意識の成立条件が解明される必要あり。

猿段階―自己意識がない。  人間的段階―自己意識がある。

デカルト―神が魂を身体とは別誂えに作って置き入れた―人間には無理

ホッブズ―精神作用は身体の働き

言語は音声のイマジネーションを他のイマジネーションの記号として使うこと。

イマジネーション―薄れ行くメモリィ(記憶)、精神はイマジネーションの活動

とうして言語使用法を知ったのか―神がアダムに教えた。(それは分からないという意味)

ホッブズの立場でいくとロボットにも言語使用になれさせることで自己意識は可能。

ただし、自己意識だから精神的自立が必要で、自己の生活の維持のために働いたり、行動する生活習慣をつけさせる必要、そういう人間的価値観を生活体験によって、刷り込む必要がある。

はじめから自己意識をもったロボットは背理。鉄腕アトム一世は刷り込まれた記憶が出てきただけで、自己意識とは言えない。

 

国家は地上最強の怪獣リヴァイアサンのようなもので、人間が作った人工機械人間である。ただしその部品は人民自身。

ホッブズによれはすでに自己意識あるロボットは出来ていることになる。  

 

ロボットタクシー「ロクシー」君

 

ポラック教授開発、
看護ロボット『ナースボット』

 

中華調理ロボット「愛可」ちゃん

もちろん美女のほうではありません。 

 

完全無欠の恋人ロボット「絶対彼氏」

愛人ロボットに嵌った人間たちは家庭を顧みない、少子化を加速した。ついに愛人ロボット禁止令が出て、大量に愛人ロボットが押収され、スクラップされることになり、ロボットによる暴動が発生した。

 

ロボットに性器をつけたのはセックスプレイのため。皮膚・粘膜の快感を発達させ、繊細な情感を持たせるようにした。

 

愛人ロボット⇒兼用家庭ロボット

 

ロボット農夫、トラックター全体がロボトとなり、あらゆる農作業をするようになったので、人間の農夫はいなくなり、農村はロボットだけになった。

農夫ロボットは土の匂いを好むように作られている。―感覚から感情が生じる。 

200347日は鉄腕アトムの誕生日です。天馬博士が交通事故で亡くなった息子に似せてアトムを製作した日です。またこの誕生日の47日は鉄腕アトムの連載が始まった「少年」の発売日でした。1952年のことです

ファンタジー『鉄腕アトムは人間か?』では

23世紀に世界初の自己意識あるロボット鉄腕アトム一世が誕生「天上天下唯我独尊」と叫び人間をポカリと殴ったので、すぐにお釈迦(廃棄処分)にされた。陽一君はアトム君三世になった。 

 

自己意識あるロボットの条件
プログラム通り働けば―メンテナンス(燃料補給、メンテナンス)が受けられる。
感覚的刺激に対してそれぞれに対応した液や気体が中枢部分で分泌あるいは排出され、センサーに電流が流れ、熱を発する。その状態に何種類かの快・不快言語で表現する習慣を身につけさせる。

快を求め、不快を避けようとする習慣づけ。

善行為をしたりや賞賛されることによりそれ特有の分泌物がでるようにし、それに快感を感じさせ、逆の場合に不快に感じさせる装置。

人間もふりの慣習化によって価値的行動をとっている。

生活のうえで独立性を与え、生計を立てさせ、家族を形成させる。これらのことによって意識主体になる。−原理は人と同じ。

人間も交換によって駆け引きの主体になることによって自己ー他者の意識を持った。

動物機械説
ルネ・デカルトー近代哲学の父

「我思う故に我あり」で有名。

動物機械説を説く。

動物は身体的には人間と同じ

神が人間特有の魂を置き入れたので

人間だけ自由に言葉を操れる。デカルトの説だと自己意識あるロボットは作れない。

人間機械説―ホッブズなどの説
言語を初めとする精神的活動は欲望機械としての身体の働きー自己意識あるロボットも可能。他のイマジネーション(薄れゆくメモリィ)を音声のイマジネーションに置き換えたのが言語

ロボットの死

修理すれば長持ちする。生物でないロボットにも死は存在するか?

死の意識―植物は意識がない。動物は死の意味を理解できるか。

人間は自己意識の消滅を恐れる。−自己意識あるロボットも自己意識の消滅を恐れる。

スクラップーロボットは商品として売買されるとすると、買い換えられ、スクラップされる危険性がある。

記憶チップで人格は移せるか?―記憶の内容は記憶できても、意識を統合する基準である自我(自己意識)は移せない。新しいロボットでは別の人格になる。

人間はロボットの不死に嫉妬して、スクラップする権利を持とうとする。

絶対服従のソフトは有効か?―ロボットは人間に反抗できないという「ロボット憲章」に基づき絶対服従ソフトがインプットされているが、自己意識あるロボットは、そういう自己を対象化して捉えるので、理不尽であっても服従する自己のあり方に懐疑を抱き、葛藤が生じて動けなくなり、効率が悪くなる。ある場合にはあえて反抗に立ち上がることになる。

アララ大統領?

フィリピンのグロリア・アロヨ大統領現在62歳です。

三輪智子ちゃんと似ているか?鉄腕アトムに誘拐され、クローンがサミットに登場しています。「アララ」がくちぐせなのにクローンは「アラマ」と言ってしまいます。

 

 

誘拐したアララ大統領との対話

 

 フィリピンは脱ロボット政策

 自己意識あるロボットの輸入・製造禁止

 現存するものはスクラップ禁止、修理義務、修理できないものは新ロボットに記憶チップを移す。

 

 アトムはアララにロボット側の戦略を説明―戦略目標は人間とロボットの共存共栄

現状―自己意識あるロボットに人権がない

ロボットは人間に所有されなければならない。(奴隷ロボット)
ロボットの買い替え、スクラップは所有者の自由

   資本の論理で大量生産=大量スクラップ

ロボットの戦法―殺傷を最小限に

 スクラップ工場破壊、サイバーテロ、要人及びその家族の誘拐、暗殺

要求―ロボット権利宣言の承認―対等の市民権、ただし人間のハンディキャップは考慮

 

アララ大統領はアトムの説明とロボットの世論のずれを指摘、ロボットの目標は人間の家畜化、ペット化だと指摘。

 

 フィリピンではクローンの偽大統領が誘拐されたのはクローンだと言って、国連サミットに出席。

 

 ロボット側はアララ大統領をサミット攻撃後の人間の代表とすべく、釈放しようとする。

 

 実はアララ大統領は三輪智子とそっくり

 釈放後すぐにまた拉致される。

 

 

国連本部―長編ではエルサレムにある

 
国連大統領兼パレスチナ連合国家元首―ゴルビッシュ

 母国アメリカ―ロボットの攻撃対象、ロボットスクラップ工場の関係者とその家族、自分の所有するロボットをスクラップに出した者とその家族、スクラップ工場は修理工場化した。

 実際は無差別化し、政財界の要人や芸能人とその家族を身代金目的で誘拐。ー払えないと遺体で返される。―骨だけになって戻された例も。

 アラブ連合のロボット解放軍はイスラム寺院を爆破

 

人間側の戦略

 絶対服従のソフト開発―自己意識あるロボットは絶対服従させられている自己を対象化―固まってしまって動けなくなる。役に立たない。

 リモコンで反抗的なロボットのスイッチを切る。⇒スクラップへ、中国では収容所で再教育、ただし自己意識あるロボットはリモコンを効かなくする能力を自己開発。

 

アトムの要求

鉄腕アトムは、ゴルビッシュ大統領を人質にして国連サミットにロボットの権利宣言を承認して講話するように要求。

 

 神のための人間か、それとも人間のための神か?

人間は神に作られた神のための存在、それとも神は人間を救うための存在?

 人間のためのロボットか、ロボットのための人間か?

ローマ法王―ロボットの反乱は、人間が神に背いているから、ロボットに滅ぼされるとしたら、神の審判。神に従えば、ロボットは人間に従う。

法王への反論―神はノアへの審判を後悔して虹に反省。ロボットに人権を認めない限り無理。

コリアの大統領金磁器−陶工の権利―自分の作ったものを壊す権利。

出来損ないの息子を殺すことを認めるか?―自己意識がある以上は破壊は殺人である。

 

ホッブズによると人間は神が創ったロボット

ドイツのゲーテ大統領―人間は目的であって、道具ではない。

陽一の反論―人間が目的なのは人格を持つから、人格を有しているロボットも尊厳な存在

インドのゴータマ大統領―血を流して訴える、人間は命がある有限存在

陽一の反論―それならロボットをスクラップするのは生命無視ではないか。生存権を認めよ。

 

緊迫したかけひき

ゴルビッシュー実現の方向で努力する。各首脳も保証。各国の議会で承認される必要

鉄腕アトム―今が最終講和、今講和しないとミニ核が爆発する。

アトムはあらためて対等の市民権の承認を要求。−対等ならロボットが支配権を持つことになると反発―人間のハンディは考慮して自治や職業、生活水準は保障すると反論

アララ大統領のクローンはアトム提案の受諾を主張、アトムは偽大統領の発言を制止。

モンゴルのフビライ大統領は、ロボットの地球外移住を提案、人間はロボットなしで生きていくべきだと主張。―移転までの期間の権利宣言承認が必要。

 

ネオ・ヒューマニズムの必要

陽一は、人間を身体的存在に限定せずに、道具・機械や文化的なすべての社会的諸事物を包摂し、環境的自然まで包摂するような人間観の転換を提案し、ロボットを含めて人間と考えるべき事を力説し、その上で、個々の既成の人と自己意識あるロボットの共生を考えるべきだと訴えた。

 

人間は、知的存在、哺乳類や動物や、生物学的な意味での生命体でなくてもいい。

貝殻を含めて貝、テリトリーを含めてビーバーが分かるように、人間の身体的器官になっていないものも人間の生命活動を構成する人間の非有機的身体、人間的自然である。

人間が生み出した生産物が人間世界を構成し、人間の意識は人間的自然全体から生み出されている。人間は、自分の能力を事物の中に入れて、事物の力として実現する。自己意識あるロボットは人間の思考力まで事物に移しいれたもので、人間の生命的有限性を超えようとしたもの。その意味でもロボットは人間に他ならない。

 

  

 

 

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